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未来と過去と今と黒猫とぼく
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未来と過去と今と黒猫とぼく ー約束・後編ー-2

『死んだ人は星になる、そして高い高い私達には手の届かない所から、私達を見守っているんだよ』
ふいに、ばあちゃんの言葉が頭に浮かんだ。
優姉さんが死んだ後に、ぼくを心配したばあちゃんがぼくにかけた言葉だ。
その心配は、大分検討違いではあったのだが。
死んだら星になる。
そして高い所からぼくらを見守っている。
この中のどこかに、優姉さんは居るのだろうか。
だとしたらひどい話だ、とぼくは思った。
大小無数にある星々にも、いつか消えてしまう日はくるだろう。
ある日突然、最初からそこには何もなかったかのように消えてしまうだろう。
ぼくは恐らく、それに気付かない。
例えどんなに目立つ星が消えようと、ぼくはきっと気付けない。
星が一つ無くなった夜空を、ただそうあるように見るだけだ。
星になった優姉さんがどんなに大きく輝く星だったとしても、そしてそれが突然無くなってしまっても、ぼくにはきっと分からない。
それは、とても残酷な話なのかもしれないけれど。

「…星」
「ん?」
「綺麗だね」
「あぁ、うん、そうだね」

いつの間にか伊隅さんは顔を上げ、ぼくと同じように空を見上げていた。

「星、好きなの?」
「うん、綺麗だよね」
「そう…」
「星座とかも少しなら知ってるよ、君は?」
「ぼくはあんまり知らないな…星単体の名前なら少しだけ、教えてもらった」

星が何かを形作る為のかけらってイメージが私は嫌いなのよ。
星一つ一つがすごく綺麗なのに。
だから私、星座はあんまり好きじゃない。
あんたも、覚えるなら星座じゃなくて星の名前にしなさい。
ぼくに星の名前を教えてくれた人は、そう言っていた。

「へぇ、誰に?」
「ぼくの姉さん」
「そうなんだ…」

きっと、ぼくに死んだ姉がいる事を、武内かまたはぼくと同じ中学出身の誰かに聞いた事があったんだろう。
伊隅さんはそれ以上喋ろうとしなかった。
死んだ人間の話を落ち着いてできる程、ぼくらはまだ大人じゃないし、笑い飛ばせる程、もう子供でもない。
そういう事なんだろう。

「でも、きっとさ」
「ん?」

ぼくは空を見上げるのを止めて、伊隅さんの方を向いた。
伊隅さんも、ぼくの方を向いていた。

「お姉さんは、君に知って欲しかったんだね。世の中にはあんな綺麗な物があるよって。そしてそれに私たちはこんな名前をつけたんだよって、君に知って欲しかったんだね」

そう言って、伊隅さんは微笑んだ。
ぼくは自分のするべき表情と返答に困って、また空を見上げた。
その微笑は、あまりにも優姉さんに似すぎていた。

「君は、あんまりそういう事に興味が無さそうだからね、教えたかったんだよ」
「…そうだね…そうだったのかもしれないね」

あんたは本当に情緒ってもんがないね。
もっと色々あるでしょう?
言いたい事を言う事が必要なように、そういうのを感じるのも大事なもんなのよ。
そんな事も、よく言われていた。
伊隅さんの言う事は、おそらく正しいのだろう。


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