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未来と過去と今と黒猫とぼく
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未来と過去と今と黒猫とぼく ー約束・後編ー-1

それからしばらく、ぼくらはまた思い出話に花を咲かせた。
ただ場所が公園のブランコに移っただけで、駅へ歩きながらしている話と大差はなかったが、過去の事に関してこれほど長い時間を伊隅さんと共有できる事にぼくは少し驚いていた。
例えそれが伊隅さんとぼくが直接関わった事ではなくてもその時、同じ場所、同じ時刻にそこに居ただけで話は通じ、広がっていくものだった。
しかし、ある共通の出来事に対しての伊隅さんの価値観や感想は、やはりぼくとは違う物ばかりだった。
初めは男女の差なのかと思っていたが、どうもそうではないらしい。
おそらく、伊隅さんとぼくとでは物事一つに対する自らの意見の濃度が違うのだろう。
信号機の「進め」の色は伊隅さんにとって、「みんながそれを見ると進む、青と呼ばれる緑色」のような気がする。
ぼくには、「青」以上の答えを用意できないけれど。

「やっぱあの時あたしが言っておけばね〜」
「あれは仕方ないよ、なるようになっただけだ」
「…あ、あと修学旅行の時にさ…」
「…あぁ、武内が…」

そんな風に思っている内に、ぼくは次の話題を考えるのが難しくなってきているのに気がついた。
おそらくそれは伊隅さんも同じだったのだろう。
お互い、話と話の間の空白が少しずつ増えてきていた。
話の種が尽きたという事だろう。
頃合いだ、とぼくは思った。

「そろそろ行こうか、結構遅くなったみたいだし」

手遊びの道具にするのに飽きて横に置いたミルクティーの缶を取り、立ち上がって、ぼくは言った。

「え?」

伊隅さんの疑問顔に、ぼくは少し面食らった。

「あー…うん、もう遅いしね?うん」

平静を装っているが、何故か焦燥しているように、ぼくには見えた。
伊隅さんもどこかおかしい。
武内の次は伊隅さん。
卒業式の夜はみんな、いつもと違う様になってしまうのだろうか。
だったら尚の事、ぼくらは早く別れるべきだ。
過去への感傷に浸れないぼくにはきっと、彼らの気持ちが分からない。
まともに話をする最後の機会ぐらい、お互い、気まずい思いは無しでいこう。
ぼくは伊隅さんの前に立ち、歩くのを促すつもりで彼女に言った。

「伊隅さんの親も心配するだろうし」
「……」

だが伊隅さんは下を向いて、立ち上がらないばかりか喋ろうともしなかった。
一体なぜ彼女がそんなにここに留まりたがるのか、ぼくには検討もつかなかった。
それ以上彼女にかける言葉が見つからなくて、ぼくは天を仰いだ。
夜空ではまだ肌寒い季節の澄んだ空気が、星をいつもより綺麗に光らせていた。
雲一つ無い、満天の星空。


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