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『鵺』
【鬼畜 官能小説】

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『鵺』-8

〈あれ以上の事をされたい……〉

身体はそう望んでいた。

季節が逆戻りしたかのような寒風が舞う中、理沙にとって、じりじりとした時間が過ぎていく。

どれほど経っただろうか。

見つめる屋上の出入口に、黒い人影が現れた。

伸治だった。

その姿を見た途端、理沙の心臓は鼓動を速め、歓喜の表情を浮かべる。これからの事を考えただけで足元が震えだす。

伸治はゆったりとした足取りで理沙に近寄ると、普段と一転して柔らかい表情で訊いた。

「遅れてすまない。ところで話って?」

壁により掛り、俯き加減に見つめる理沙。それは昨日と違い、ヒザの震えを悟られまいとしてだった。

頬を真っ赤に染めて理沙は言った。

「…き、昨日の続きを……して欲しいの……」

絞り出すような言葉。辺りは風の舞う音だけが支配し、沈黙が流れる。

理沙の顔を見つめる伸治。その表情から柔らかさは無くなり、嘲りの目に変貌していた。

「…やめとくよ」

伸治はそれだけ言うと踵を返し、理沙に背を向けた。

「…えっ…?」

背中が遠ざかる。理沙は慌てて駆け出すと、伸治の前に廻り込んで睨みつけた。

「…どういう意味よ!き、昨日はあんな事やっといて…」

これまで望みが叶わない事など無かった理沙。そのプライドを潰されさて、怒りに任せて言い放つ。
そんな態度にも、伸治は眉ひとつ動かす事無く言葉を返した。

それは、まるで幼子を諭すように。

「…アンタがどう思おうが構わないが、オレには関わるな……」

拒否の言葉。その目が一瞬、青白く輝いたように理沙には思えた。

黄昏の陽光を浴びて出口へと消える伸治の背中を、理沙は黙って見続けていた。



校舎を後にした伸治は、最寄りの駅に続く道を急いでいた。
そこに黒塗りのメルセデスがゆっくりと現れた。

伸治は辺りを見回す。

先刻の理沙との一件で下校時刻はとうに過ぎていたので、学生の姿は無かった。

素早く後部座席に滑り込むと、メルセデスは急発進して本線の流れへと消えて行った。


(…なんであんなクルマに…?)

誰にも見られていないと思っていたが、その一部始終を理沙は見ていた。


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