『鵺』-3
学校から数キロ離れた場所に建つマンション。レンガ色とクリーム色に塗り分けられた建物は、際立つコントラストがモダンさを醸し出していた。
その6階。エレベーターから野澤理沙が現れた。
エレベーターを降りた彼女は、左に折れて通路を進むと〈604〉とプレートが張られたドアーの前に立つ。
そこは彼女の自宅だった。
鞄から鍵を取り出し、ドアーノブに差し込むとロックを解除した。
玄関ドアーを開ける。
その空間は夕方だというのに、朝の装いを留めたままだった。
その光景にため息を吐く理沙。
玄関を上がり、真っ直ぐに続く廊下の奥にあるドアーを開けると、広々としたリビング兼ダイニングの空間が展がる。
テーブルには理沙に宛てたメモが置いてあった。
《今日は遅くなります。夕食は冷蔵庫に入っています》
母からのメモだった。
両親は共働きの上、父親は地方への単身赴任中。故に、夕食はひとりぼっちで摂る事が多い理沙。
学校では明るく社交的に振る舞っているが、それは彼女なりに作り得た処世術だった。
冷蔵庫を開いて中を見ると、ラップに包まれた皿が目に留まる。
出来あいの惣菜が並んでいた。
再びため息を吐く理沙。
そばの飲み物を取り出すと、リビングを後にした。
自室に入り、机の上に鞄と飲み物を置くとベッドに横転がる。
ぼんやりと天井を見つめながら、放課後の出来事を頭で反芻した。
(…あの目……)
一瞬に間合いを詰められ、眼前に飛び込んで来た伸治。感情というモノを全て否定した嘲るような目。
あの目で見つめられただけで身はすくみ、背中に冷たいモノが走った。
その後に受けた辱め。
ムリヤリに唇を奪われ、あまつさえ口腔内を舌で弄ばれて唾液まみれにされた事に、嫌悪感を抱く理沙。
だが、辱めを受ける間に頭は痺れ、身体の芯は疼き、熱を帯ていった。
甘い快感が駆け抜けた。
そして、最後には身を委ねた。
その事を考えただけで、理沙は自身が濡れていくのを感じていた。
「…ふぅ…あぁん…」
指先は内腿を伝いスカートをたくし上げ、ショーツのクロッチをなぞっていく。