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捨て猫
【コメディ 恋愛小説】

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捨て猫-13

でも、不幸にも俺は、自分はトシの事は何でもわかってるって、自分を過信してい
た。トシはクラスの人気者だったんだ。アホなことを言っては、人を笑わせて、アイ
ツが一人いるだけで、クラスは何倍も明るくなった。でも、トシは人気者には成りた
くなかったんだ。
トシは、いつも不安だったんだ。人に嫌われたり、嫉妬されたり、恨まれたり、見放
されたりすることが。だから、トシは道化として生きることにした。人に笑われる間
は、恨まれも嫌われもしないから。でも」
初めきょとんとしていたユキの顔は、俺をまっすぐに見つめている。
耳をピンとそばだてて、一語一句聞き逃さないように、真剣に。
雨が容赦なく俺らの間に降り注いでいる。
その微妙な距離感を持たせてくれる雨が、何故だかとてもありがたい気がした。
「俺は何もわかってあげられなかった。何の悩みもない、ただのアホだってそう思っ
てたんだ。だから、特に考えもなく言っちゃった。トシの身を切るように切実な質問
だって言うのにさ。そしたら、アイツ……」
苦しくなる。息が詰まる。
認めて、見つめて、向かい合うことは辛い。どうしようもなく辛い。
「ドアノブで首吊って死んじまったよ。遺書なんか何も残すことは、無かったけど。
それから、怖くなって俺は逃げ出した。町を歩けばどこにだって、トシの影がちらつ
いていたから、ヒキコモルことにした。
でもさ、どうやったって思考の端には、トシがいた。目を逸らそうとすれば、するほ
どむしろトシの姿は鮮明になって……だからこそ、ここまでトシの事、わかってあげ
られるようになったんだけどさ」
言い終わった。
俺は言葉にすることで、ようやくトシの死と向き合えたのだ。
妙な達成感と充足感が体を満たすと同時に、しでかしたことの罪悪感が重く背にのし
かかる。
あとはそう、償うだけ。
「くだらないわ」
そんなセンチメンタルな気持ちに浸る間もなく、短くピシャリとユキは言った。
耳を疑わずにはいられない。
慰められるなんて甘い事を思っていた訳じゃないけれど、その答えは、予想もつかな
かった。
自分で言うのは何だが、どう考えてもこれは、くだらないことじゃあない。
むしろ、凄まじくセンチメンタルな重い重い話であり、高尚な悩みだとすら思う。
なのに。なんなんだ、この答えは。
いくら人間ではないとはいえ、マナーが悪すぎる。
少しだけ、怒りを視線に込めながら俺はユキを見返す。
でも、ユキは少しも怯む様子もなく、むしろ俺以上に怒りを込め睨み付け返した。
耳をわなわな怒りに震わせている様子は情けない話だけれど、逆にこちらが怯んでし
まう。
「あんたは、贅沢よ!」
贅沢だと?さすがにカチンときた。
人がこうまで背負い続けてる罪悪感を贅沢だと。正直、思い知らせてやりたい。
友人を心無い一言で自殺させてしまった人間のこの苦しみを。
ユキは耐えられないに違いない。
耐えられなくて、どうしようもなくなって、俺のように自分を傷つけようとするに違
いない。
所詮、人は人の苦しみなんて理解できないんだ。
俺がこうまで苦しんでる事実を、世界の誰もわかってくれない。
それが虚しくて気が滅入るが、無神経なユキへの怒りのが勝り、俺は声を荒げて言っ
た。


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