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和州道中記
【その他 官能小説】

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和州記 -或ル夏ノ騒動--7

剣闘とは、和州の街に見られる賭博の一つである。
博徒お抱えの用心棒や腕に覚えのある旅人などが剣を合わせ、どちらが勝つかを賭けるといったものだ。
用いるのは真剣ではないが、それでも仕合はかなりの迫力。
竜胆が賭博を好かないせいもあり、剣闘の存在は知っていても実際に参加したことはなかった。
参加するとは勿論、剣を振るう方である。
「勝負あり!」
その言葉と共に、やたら大きな歓声が上がった。
一紺が人の輪の中を覗いて見ると、そこには腕を真っ赤に腫らし倒れ込むちんぴらの姿と木刀を戻す男の姿。
脂汗を流すちんぴらとは対照的に、汗一つ掻いていない束髪の男は四十頃だろうか、一紺から顔は良く見えないが壮年の大男のようだ。
盛り上がる中、一紺は取り敢えず様子を見ようと人を掻き分け、仕合が良く見える位置を陣取った。

「どいてろ!次は俺の番だ」
言って、輪の中から現れたのは髭面のちんぴらだ。
木刀を腰に引っ提げた髭面は唾を吐いて言う。
「けっ、どいつもこいつもだらしねぇなぁ…余所者なんかに負けたとあったら、親分が泣くぜ?」
どうやら先程倒れ込んでいたちんぴらの兄貴分であるらしい。
厳つい面の屈強そうな男だが、先に勝ちを収めた大男も迫力では負けていない。
「こいつを伸したくらいでいい気になるんじゃねえぜ」
笑いながらの髭面の言葉に、大男もその頬に薄く笑みを浮かべた。
「いい気、だと?あの程度の相手、倒したって何の自慢にもならねえさ」
「な、んだと…!?」
小馬鹿にしたような彼の言葉に、かっと髭面が顔を歪める。
そしてその歪んだ顔を見て、再び大男が鼻を鳴らした。
「て、てめえ…!」
「怒らせたか、それはすまねえな。まあ、その怒りを仕合にてぶつけるこった」
あくまで静かに冷静に流す。
「さ、張った張ったぁ!」
胴元が声を張り上げると同時に、わあっと歓声が上がった。
大男が髭面に向かってすっと木刀を向ける。
その口の端には、余裕の伺える笑みが浮かんでいた。
「けッ、後悔すんじゃねえぞ!!」
髭面はそう言い放ち、地を蹴る。
なかなかの速さをもって、髭面の木刀は大男の胴を打った――かのように思われた。
「!」
ぎぃん、と双方の木刀が木刀らしからぬ音を立てた。
「ほう、結構な馬鹿力じぇねえか」
大男の右腹を狙った髭面だったが、彼の一撃は大男の木刀に防がれていた。
衝撃は木刀から手のひらへと伝わり、大男は手首を押さえて苦笑した。
しかしその表情にはまだ余裕が見える。
青ざめたのは髭面の方だった。
(あいつ、結構な速さで掛かってった。せやのにあの男…)
あの速い振りをほんの一瞬で見切り、防御するとは。
一紺にも大男の力量が見て取れた。
髭面がごくりと息を飲む。
「ど、どこの馬の骨だか知らねえがな!てめえ、俺をな、なめんなよ!?俺はこれでもこの辺のシマァ仕切ってる黒鳶組の…」
非情にも。
台詞の途中で、髭面の顔が大男の木刀にひしゃげた。
男は力を加減している様子だったが、それでもたったの一撃で髭面の身体は地に倒れる。
乾いた地面から黄色い砂埃が舞い上がり、敗者の姿を消し去った。
「すまんな、お前のその口上があまりにうっとおしかったんでな」
軽い口調でそう言うと、大男は自分を取り巻く人の輪を一瞥した。
「他に、誰かいねえのか?」
しんと辺りが静まる。
これほどまでに鮮やかな手足れを見せ付けられて名乗り出る者はそういまい。
しかし余所者であるらしいこの大男にやられたとあっては、その名が廃るらしい――髭面の一味と思われるちんぴらが、声を上げた。
「おい!誰かいねえのか!?」
そんなちんぴらもまた腕に傷を負っていた。
どうやらこの髭面一味は、この大男にことごとくやられてしまっているらしかった。


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