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夏色の宿題
【少年/少女 恋愛小説】

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夏色の宿題A-4

辺りに人の気配はなく、優しいさざ波の音だけが、静寂を閉じ込めていた。百合が麦わら帽子を脱いだ。吸い込まれるようなセピア色の瞳が、光を映して煌めいた。どちらからでもなく、僕と百合の顔が近付き、重なった。出会う二つの唇。柔らかくて、ほんのりと温たかく…。夏色の風に乗って、重なり合う百合の温もりを頬に感じた。一つになった僕と百合の唇は、どんな洒落た台詩より、確かな想いを伝え合った。ほんの二〜三秒の事だった。それでも、僕にはとても密度の濃い時間に感じた。やがて二人の唇が離れると、僕の中で何かが終り、新しい何かが芽を出した気がした。終りを告げた何かより、それはずっと素敵なものに思えた。僕は百合の瞳を見つめる。セピアの双眸の中、いつか捜した反映を見付けた気がした。彼女の細い体にそっと腕を回し、僕等は抱き合い、頬を奇せ合う。ともすれば消え入りそうな声で、百合が耳元で、(ありがとう)と囁いた。(愛してる?)と僕も囁く。(愛してる)百合が同じ言葉を返してくれた。やはり、世界は光で満ち溢れている。百合の温もりと共に、僕は確信した。勿論、百合が側に居てくれる事が条件だけど…。
優しい時の流れに身を任せ、僕たちはその意味を確認し合った。「愛」と言う、くさい言葉以外に、その意味は見付からなかった。もっとも、僕たちのような子供の言う「愛」なんて、どれだけ真実身のあるものかは分からない。けど、この刹那の想いだけは、絶対に偽りなんかじゃない。百合の温もりがそう語っていた…。
熱い想いを確認し合うと、体を離す。しかし、その面影を求めるように、すぐにまた手をつないだ。
「これから、何処へ行こうか」
と僕が言う。
「連れてってくれるの?」
と百合。
「勿論。何処へでも連れていく所存さ」
僕は笑った。
「じゃあ…取りあえずお茶でもしません?」
「OK。安くさいアイスコーヒーで良ければね」
そう言って、僕は左手を、百合は右手をつないだまま、僕等は立ち上がった。百合が左手の麦わら帽子でスカートに付いた砂を払う。灼けるような砂浜を、僕たちは歩いた。足下に伝わる砂の熱さより、百合の手の平の温もりの方が、不思議と暖かく感じた。
「明日も、この場所で逢おうね…」
百合が言った。
「明日も、明後日も…此処で君を待ってるよ…ずっと」
そう、ずっと…。この夏空の下、君が来るならいつまでだって、時はいとわない。
つないだ手、いつまで握る事ができるだろう。願わくば、五年後も、十年後も、こうやって百合と夏の海岸線を歩いていたい。…大丈夫。きっと叶うさ。僕等は、互いに道しるべだから、時には立ち止まる事もあるかもしれないけど、道に迷う事はない。百合の横顔を見る。つぶらな目。暗くも明るいセピア色。視線に気付き、百合が「何よ」と言って微笑んだ。「別に」僕は笑った。僕はふと思った。僕たちの行く先に、未来図なんてない。未来は、僕たち自身に記されているのだから…。時は次第に正午に近付いて、陽射しは目を焼くように強まり、潮風が頬を撫で上げ、颯爽と踊る夏。傍らに美しく咲く百合の華。この美しい世界の中、百合と一緒に、いつまでも歩き続けよう。いいだろ?百合。いつまでも、死が二人を分かつまで…。



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