ジャム・ジャム・ジャム-11
「お、おう」
妙な空気の中、ダナが肩を竦めて沈黙を破った。
「そろそろ、行きましょ。海賊がやって来ないとも限らないしね」
言って立ち上がると、親指で入り口を指して二人を促した。
二人も頷いて立ち上がるが、少女が身体のバランスを崩して、よろめき倒れる。
慌てて駆け寄った二人に、急激に立ったからだろう、と彼女は笑って言った。
「大丈夫？」
「これくらい、平気よ」
気丈にそう言ってのける。
そんな少女に向かって、ダナは思いついたようにぽんと手を叩いた。
「そう言えば、名前聞いてなかったわね。アタシはダナ・ダイン、こっちは――」
「エイジだ」
エイジは何やら不機嫌そうにそう答えて、しかし少しばかり視線を泳がせてから、すっと少女の前に手を差し出た。
しかしその顔はそっぽを向いていて。
素直じゃないわね、とダナがくすりと笑う。
「あたしの名前は……ジャム」
エイジの手を取って立ち上がり、少女――ジャムが答えた。
第4章 天才トレジャーハンターって呼んでよ
「はあ……はあ……幾ら軽いっつっても、流石にこの距離はキツいぜ……」
「はあい、ご苦労様ァ」
廃戦艦を脱した三人は、エイジとダナの愛船『プラチナ参号』へ戻るべく沼地を歩いていた。
しかし、二十分ほど歩いたところでジャムが膝をついてしまったのだ。
無理もない。
海賊に閉じ込められてから満足な食事を採っていないのだ。また心労も重なっているだろう。
『平気よ、歩ける』
そう言うものの、息は上がっているし膝も震えている。
ダナがちらりとエイジに目をやると、彼は仕方ないといった様子でジャムの身体を抱え上げたのだった。
担ぎ上げるようにジャムを肩に乗せ、エイジはそのまま歩き出す。
『ちょッ、あ、歩けるってば！』
『嘘つけ、歩けてねえだろ』
『歩ける！』
『歩けない』
『歩ける』
『歩けない』
『歩け……』
言い合いが続いたが、疲れもあったようで暫くするとジャムが大人しくなった。
やれやれとエイジは息をつき、適当な丸太を見つけると、担いでいたジャムの身体を下ろし、今度は彼女を背負う。
最初から背負えばいいのに、というダナの言葉に、エイジは少々苛立ったような口調で答えた。
『こいつのことだから、素足を持ったりすると……その、うるさそうだから……』
するとふうん、とダナがにやけた顔で返し、エイジの怒りを買ったのだった。
ようやくプラチナ参号に乗り込んだ三人。
ダナが出発準備をしている間に、エイジはジャムの身体を簡易ベッドに横たえ、眠っている彼女の傍らに腰掛けた。
エイジは己の首筋にそっと手を触れる。
先程から微かに香っていた柑橘系の香りは、彼女の香水か何かだろうか。
爽やかな甘酸っぱい香りが、自分にも移っているような気がして、思わず顔を赤らめる。
自分の顔の赤さを誤魔化すように、暑い暑いとひとりごちながら、エイジは冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターをぐいと呷った。
「しっかしまあ、良く眠ってるな」
気持ち良さそうに眠るジャム。
この顔だけ見れば、大人しそうな美少女であるのだが――
「あの性格、だもんな」
気丈と言えば聞こえは良いが、気が強く押しも強い。
売られた喧嘩は必ず買ってしまうような、そんな女。