光の風 〈風神篇〉前編-9
「そんな馬鹿な！じゃあリュナが風神なんてありえない！俺たちはあそこで生まれたからこそこの力を持っている。そのほとんどが神官の力。環明と同じ時代に生きたなら風神の資格などないはずだ！」
想像以上のカルサの反応に貴未は驚きを隠せなかった。彼は何をそんなに慌てているのだろう、何を怯えているのだろう。過剰反応する理由が分からない。
「確かに、風神となり風の精霊に選ばれるくらいなら太古の時代に神官になるか私達が気付くはず。」
マチェリラが続ける。
「可能性としてあの子が直接環明から力を受け継いだ、という事が上げられるわね。」
「だとしたら太古の因縁も知っている、もしくは関わりがある事になるな。」
千羅が付け足すように低い声で発言をした。
カルサは手で口を覆い激しく波打つ感情を押さえようとしていた。何でこのタイミングでそれが出てくるのだろう。
彼女は言っていた。太古の因縁も、自分の力のルーツも何も知らないと。今ある知識は全て祖母と慕った風蝶の婆に教わったものだと。そう言っていたのに。
「リュナの体の中には魔性の血が流れている。」
突然のカルサの言葉に千羅と貴未は驚いた。マチェリラだけが苦々しい表情でうつむく。
「マチェリラ、リュナを見たなら気付いたんじゃないのか？」
カルサの言葉にマチェリラは肯定の声をあげ頷いた。
「彼女は魔性の血を持っている。残念だけどそれはハッキリ言えるわ。」
次々と明かされていくリュナの秘密のベール。捲っても捲っても彼女の真実の姿が見えなかった。まるでベールに包まれた奥深くで嘲笑っているかのようにも感じる。
「何がどうなってるんだ。リュナが古の民で魔物？」
困惑しすぎて貴未は頭を抱えた。目に浮かぶのは愛らしい笑顔のリュナ。今まで共に過ごした日々からは嘘をつくような人とは思えない。
「リュナが知らなくてもレプリカが知っている可能性がある。」
千羅の言葉にマチェリラはすぐに反応した。
「彼女も古の民、でも人間だったわ。」
カルサは見渡すかぎりの景色を目に焼き付けた。そして空を仰ぐ。まだ魔物の群れが城に着くには時間がある。カルサは右手を高く挙げ、目を閉じて力を放出し始めた。体からみなぎるオーラは力の表れ。
「桂、頼むぞ。」
小さい声力むと光が勢い良く天まで柱を伸ばし、やがで複数方向に散りばり放物線を描くように地上に落ちた。光は爆発音と共に砕け散る。
カルサ達がいる場所から見える地上360度全てが爆煙で囲まれた。
カルサはゆっくりと手を下ろす。
「すげぇ。」
貴未の驚き混じりの声は風と共に淡く消えた。それぞれが爆煙へと目を向ける。