やっぱすっきゃねん！Ⅱ…⑤-9
2番の羽生もファーストのファールフライに倒れた。3番信也はゆっくりと打席に入ると、いつものスタンスで構える。
ピッチャーが投げた。
ボールが、信也の顔面目掛けて向かって来る。
恐怖心が宿る。しかし、信也は逃げずに軌道を見つめた。
ボールは途中から斜めに滑り、外角低めに落ちた。
(なるほど。大野の言う通りだ)
信也は打席を外し、数回、素振りをしてから再び打席に入った。
今度は少し前、ベースに近づいて。
東海中のキャッチャーは、足場を確認してからサインを出す。
ピッチャーは、サインに頷いて2球目を投げた。
1球目と同様に顔面を襲う。
信也はステップすると、右足をさらにベース側に踏み出した。
ボールが斜めに滑り流れる。
(…このぉ！)
信也は外に流れるボールを、上から叩いた。左手を強く押し込む。
〈キンッ〉
乾いた打球音が響いた。
打球は低い弾道で、ショートの頭上を飛んでいく。
信也はバットを離し、1塁へと左足を蹴った。
レフトは打球に向かって突っ込んだ。ラインドライブが掛り、ボールが伸びずに落ちて来る。
頭から滑り込み、グラブを目いっぱいに伸ばした。身体が芝生の上を流れる。
1塁を廻ったところで、信也の脚が止まった。
レフトは倒れた身体のまま、グラブを高く上げている。そこには、ボールが収まっていた。
「アウト！」
審判の手が上がった。
東海中が陣取る、3塁側スタンドから歓声と拍手があがる。
対象的に、1塁側スタンドからは〈ああ～…〉という嘆息が漏れた。
「ちっ、捕られたか……」
選手達がグランドを引きあげる中、信也はしばらくレフトを見つめていた。
「惜しかったな…」
宇野が信也の肩を叩く。手にはグラブが握られている。
「次は捕まえてやるよ」
信也はグラブを受取り小脇に抱えて、脱いだヘルメットと手袋を宇野に渡すと、そのままマウンドへと歩いて行った。