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美術教師と美しき奇人
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美しき奇人の恋愛前線-1

私には好きな人がいました。
その人はいつも絵の具の匂いがする美術室にいました。
その人は生徒に興味ありません顔をしていました。
その人は美術の先生をしていました。

『美しき奇人の恋愛前線』

放課後の美術室。少女は美術室独特の匂いを感じつつ挨拶する。
「こんにちは、先生」
「ああ」
今日はどしゃ降りの雨。夕暮れの時間帯なのだが、空は薄暗い。
テキパキと絵を書く準備した秋は彼を見る。
空を眺め一向に動かない。

「先生は雨が嫌いですか?」
「ああ」
「雨は世界を潤し、水不足に悩む場所では神の恵みですよ。それを――」
彼の言葉が割り込む。
「だが、雨のせいで自然災害が起きている」
こちらを向く冬片。
「それはどうなのかな?問題児君」
「………」
どうも私に対する免疫が出来たのか、よく反論される。
「前も言いましたが、問題児ではありません」
「そうらしいねぇ」
彼は興味なさげに答え、また空を眺める。
――空なんか見るないで私を見なさいよ
そんな想いが浮かぶが、言葉にならない。
雨音だけが聞こえる、2人っきりの美術室。
――状況だけならよい感じ…あとは…
目の前にいる美術教師を睨む。凄いくらいに生徒への興味がない教師。授業だって
『これから4時間の授業で一枚の絵を完成させろ。書けなかったら赤点で単位なしだ』
そう言うと、さっさと自分のことをしだす始末だ。
――でも、生徒からの人気あるのよね…
基本的にやることをやっていれば授業は自主。生徒から質問されれば分かりやすく答えてくれる。ただ自分からは絶対に話かけたりしないが…。そしてなりより、そのルックスだ。
何気なく聞いてみる。
「先生の若いころはモテモテでしたか?」
「んー?あー全然だな。引きこもって絵ばっかしてたし」
空を見ながら喋り続ける。
「それとまだ23の人に若いころとか言うな」
「私たち高校生からは十分、親父ですよ」
「…まぁ、確かにな」
自分の学生だった頃を思い出してるのだろうか、納得した様子だった。
「先生の学生生活はどんな感じでしたか?」
「んーとりあえず、青春からはかけはなれてたな…あと話すのはいいが、手を動かせよ」
「わかってます。今、猛スピードですよ」
「そうか…」
彼の背中が震える。顔は見えないがうけたらしい。
――今ならいけるんじゃない?…
甘い囁きがした。
だが、もし断られたらどうなるか分からない。だが、了解を得たらとても…とても嬉しい。
「先生」
「んー?」
意を決して言う。
「…冬片って呼んでいいですか?」
「んー、俺は一応教師だぞ」
相変わらず、空を眺めながら話す彼。さっきは自分をみろと思ったが、今はとてつもなく助かる。
「いい加減敬語は疲れてきましたから」
「敬語も捨てるのか」
「はい。先生も敬語使うなら捨てませんよ」
「生徒に敬語使う教師はいないだろう」
「先生は特殊な例です」
「んー、特殊ねぇ」
微妙な空気が教室を包む。


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