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美術教師と美しき奇人
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美術教師と美しき奇人-1

絵の具の香りが部屋に満ち、独特の匂いがする。天城 冬片(あまぎ ふゆかた)はこの香りが好きだった。
だからではないが美術の教師になった。

『美術教師と美しき奇人』

「世界は不公平だと思いませんか?」
生徒である少女は真剣な表情で質問してくる。冬片はいつもの如く適当に答える。
「そうかもしれないな」
「かもではないんです。ニュースを見てください。この会話中にも何の罪のない幼い子供が死んでいるんですよ!」
「そうか」
少女は驚愕した顔になる。
「先生はこの事実を知っても何も感じないんですか!?今、自分に出来ることをしないんですか!?ちなみに私はテレホン募金しましたよ」
少女の言葉を聞き流しながら、冬片は窓から空を見る。空は夕焼けに染まっていた。
――明日は雨らしいな。雨いやなんだよなー。
「聞いていますか?先生」
「聞いてるよ、問題児さん」
少女はため息をつき、哀れな目で冬片をみつめる。
「先生は問題児の定義を知っていますか?」
「面倒ばかりかけるやつだ」
「違いますね」
即座に少女は首をふり、続ける。
「一般的に問題児とはルール違反を繰り返す児童、または社会性に欠けた行動を繰り返す児童をさします」
「まさに、君のことだな」
「違いますね」
また即座に否定し、少女は俺を睨めつける。
「先生の目は節穴だらけですか?…私は世界が平和に、そして平等になり皆が幸せに暮らせればいいと思ってます。社会性は完璧です」
「とりあえず、教師を睨めつける人は社会性はないだろ…」
「先生が分からず屋なんで仕方なくです。もっと、理解を示してください」
「理解ねぇ」
冬片は少女を眺める。
夕日を浴び赤く輝く長い髪、強い意思を感じる瞳、整った顔立ち。
美人の分類に入る少女が、なぜこうも性格がひん曲がっているのだろう。
「今、私の悪口思いました?」
「…いや」
このように勘もよく、頭も学年トップクラスだというのに。
――…まぁ、女の子だし色々あるのだろう
基本的に生徒に興味が無い冬片は簡単に考えるのをやめる。
「俺に問題児言われたくないなら、さっさと絵を完成させろ」
「私もさせたいのですが、良いアイディアがないんです」
少女は真っ白の紙を見て答える。
「いい加減ラフくらいは書け。考えるだけじゃ何も進まん」
「その紙は世界の森林を削り取り得たものですよ。無駄にするなんて言語道断です」
「………」
「…仕方ない。今日はここまでにします。また明日の放課後来ます」
「自分で終わらすか、それに明日もか」
「もちろん。私は優等生ですから」
ため息をつく冬片を脇目にてきぱきと片付けて教室を出ていく少女。
ドアの手前で身体がぴたりと立ち止まる。
「…先生」
「ん?」
「私の名前分かりますか?」
背後を向いたまま、聞いてくる少女。
「はぁ?…永瀬 秋(ながせ あき)だろ?」
「……正解です」
そういうと少女は出ていった。夕焼け以上に真っ赤になった顔を冬片に隠しながら。


――なんなのだろう。
秋が出ていったドアを見つつ、彼は思った。
ここ数日、少女は放課後美術室に毎日来ていて、少女のこだわりようは、他の生徒以上だった。
――まぁ、もちろん出来ないなら赤点とは言ったが…適当にやればよいのに……最近の生徒は分からないな。

ため息をつき、冬片は帰る準備をした。


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