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赤い雫
【ミステリー その他小説】

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赤い雫-2

「今日もうちに来るでしょ?」
紗枝はコーンを頬張り言った。
当たり前のような口調に驚くと、紗枝は私に微笑んだ。
「いいの?」
「いいよ。別に・・・どうせ誰もいないし」
私は正直、ホッとしていた。
家には帰りたくない。
だけど、最近では紗枝の家に行くことが多く、泊まる回数も増えている。
いくら中学からの付き合いで、何でも話せる親友だとしても。母独り子独りの母子家庭に。それも、母親が夕方から仕事に出掛けていない間に上がりこみ、三日連続泊まるのは申し訳ないと思い、言い出せなかった。
そんな気持ちを知り、気軽に泊まることを進めてくれた紗枝に、私は感謝した。
「ありがとう」
しおらしさが以外だったのか、紗枝は悪たれをついて私の足を軽く蹴った。
もう少し見て回ろうとモール内を歩いている際にも、紗枝の小突く肘が直撃する。
好きな人とはどうなっただの、脈がありそうだから告白してみろだの、からかう。
いろんな照れと嬉しさに囲まれて、楽しい気分ではしゃいでいたとき、私のポケットで携帯が震えた。
取り出すと、周りの雑音と共に馴染みのメロディーが耳に触れる。
笑顔から一変、私の表情は固まった。
ディスプレイの表示を苦々しく睨む。
察知した紗枝は距離を置いた。
気を使い、「ちょっと見てくるね」と指をさし、並べられたブーツの群れに紛れていく。
謝って見送っても尚、呼び出し音は鳴り止まなかった。
消えない数字の羅列。振動を繰り返す携帯に、イライラは膨らむ・・・。
「帰らないから」
通話ボタンを押すなり、私は言い放った。
声のトーンを落とすも怒りは前に出る。
「何度かけてきたって、」
「加奈・・・」
番号が家のものだったので、てっきり母かと思ったが違った。
相手は一ヶ月以上も出張から帰ってこなかった兄だった。
いつ帰宅したのか聞こうとすると、兄は深い息を吐いた。
「まだそんなことをいってるのか」
呆れた顔が目に浮かぶほどの、長い、長い溜め息。
いつもの優しさや、暖かさがないことと、「いい加減、子供みたいなことはやめろ」
少し間を置いて発せられた窘めの言葉が、私を悲しくさせた。
「加奈・・・帰ってきてお袋と向き合え・・・・ちゃんと顔を見て」
「話したって無駄だよ!」
それが悲しくて寂しくて、腹立たしさが募った。
「あの人には何を言ったって通じない。まともに聞いてくれない」
「聞いてるよ」
「聞いてなんかないよ! いつもいつも怒ったりしてばっかり!」
一度吐き出したら抑えられなかった。
いろんなものが溢れ出し、爆発した。
「何をしても許してくれないし、何一つ認めてもらえない」
「だからそれは」
「女の子だから!? 大事に思っているから!?・・・そんなの違う・・・あの人が大切なのは私じゃなくて、お兄ちゃんだけだよ」
「加奈・・・」
「きっと私は、本当の子供じゃないんだ。だから私だけ、叩かれる。そうなんでしょ!? ねえ、はっきり言ってよ!」
まくし立てる私に兄は黙り込んだ。
数秒の沈黙を続け、また深い溜め息。


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