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少女と少年の市民プール
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少女と少年の市民プール-2

「ん、完了」
くしを返し言う。
やる前に比べると月とすっぽん並みに髪は綺麗に整っていた。
「さっすが夢が美容師君。上手い上手い」
「どうも。まぁ、単にお前が毎度毎度頼んでくるから上手くなっただけだけどな」
「練習出来ていいじゃん。それに、その夢の道も私の髪乾かすので示されたんだし恩返ししなきゃ。そう、例えば――」
ニコニコしながら少女は言う。
「アイス奢るとかして」
「…示したって…俺ん家美容院だし元々、示されてあるぞ」
「いやでも、髪乾かす才能を開花させたのは私だし、やっぱ恩返しは必要よ、アイス奢るとかしてさ」
「……アイスがそんなに食べたいのか?」
「そんなことないよー。ただ今は夏だしプールのあとだし普通の人はアイス、食べたくなるんじゃないかなー」
――アイス食べたいと言ってはいけないルールでもあるのだろうか?
ふと思ってニコニコしている少女の顔を見ているとプールからアナウンスが聞こえる。
―ピンポンパンポン
「神風 亜子(かみかぜ あこ)さん、浅麻 夕君、忘れ物がございます。今すぐ受付カウンターまでおこし下さい。繰り返します」
3回繰り返しアナウンスは沈黙する。
隣にいる神風 亜子を睨むつける俺。
「………それにしても普通、繰り返しは2回までよねー」
亜子が呟く。
「そこじゃねだろ!なんで俺たちの名前が呼ばれんだ!!」
「それは忘れ物したからだよ!――多分、私の日焼け止めでしょうけど、名前付きの」
「いや、日焼け止めに名前!?」
「当たり前じゃん。自分の物には名前。小学校で習わなかった?」
「………じゃぁ、なんで俺まで呼ばれるんだ!」
「だから日焼け止め忘れたからだって。話聞いてたー?」
「………」
――なんだこの不条理は。亜子の物を忘れたのに、なぜ俺まで呼ばれるんだ。なんなんだこれは。
「どうかしたー?」
それが当然かのように感じてる少女が覗きこんでくる。
「調子悪いならいつもの駄菓子屋で休みに行ってれば?忘れ物は私が取りに行くしさ」
いきなり優しくなった少女に驚いた夕だったが――
「あとで私も行くからアイス、用意して待っててね」
下心を理解したとたん、急激な疲労が襲った。
「………了解。駄菓子屋行っとくわ…」
「うん、特大ジャンボソフトクリームよろしくー!」
「……はいはい」
アイスを食べたい欲丸出しの少女を置き去り、夕は駄菓子屋の方向へ歩きだした。




少年がいなくなり、亜子はため息をつく。
――今日はちょっとテンション上げすぎた…特にプールに突き落とすのはやりすぎたわ…
いつも夕がいなくなると反省してしまう。

でも、『神風スーパーキック』をした理由は――

「…だってなんか夕が、寂しそうに見えたんだもん…」
彼女が呟く。
――女の子っぽい口調でそう言えば、少しは女としてして意識してくれただろうか…
少女はクスッと苦笑する。

答えは簡単に出てくる。
絶対にしてくれない。
生まれて14年いつも一緒にいたのだ。どんな時も、どんな場所でも。
この壁はそうそう崩れない。


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