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不確かなモノ
【大人 恋愛小説】

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確かなモノ-5

「そういえば今日、偶然アイツに会ったんだよ」
「アイツって?」
他の友人が、興味深そうに身を乗り出す。
「うちの高校の、えぇっと…名前、何ていったっけ?倫が執着してた、あの子……」
ん?僕が…執着?
そんな相手、いましたか?
「あぁ、初見 更砂!」
……んん?
「そうそう、ソレソレ!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!いつ僕が初見さんに執着していたんです?そんな覚えは、ありませんっ!」
僕の何がどう彼女に執着していると見えていたのか…さっぱり分からない。
「え?してただろ?なぁ?」
「してたな。しかも相当!」
そ、そんな馬鹿な…
唖然とする僕をよそに、友人達は首を揃えて頷いている。

「で、実際のところはどうだったんだ?」
「な、何がです?」
「初見 更砂だよ。お前ら、付き合ってたんだろ?珍しく倫が本気出してたみたいだったのに、なんで別れたんだ?」
本気って…
「別に初見さんとは付き合ってませんでしたが?」
恋愛感情を抱いた覚えも、ありません。
「またまたぁ…って、マジ?」
「えぇ、マジです」
「だってお前…キスしてただろ?保健室で」
「あっ、それ俺も見た。図書室だったけど……」
あぁ、なるほど…見られてたんですね?
だから勘違いを……

「それが何か?」
「『何か?』って…お前、本気で言ってんのか?」
「えぇ」
「じゃあ、倫…なんでお前、キスしてたんだよ?」
「それは、彼女の反応が面白かったからです。それだけです」
「はぁ?マジかよ!?」
友人達は声を揃えて、『女の敵!』などと僕を罵倒している。
店員や他の客などまでもが刺すような視線をこちらへと向け、さすがの僕も居心地が悪い。

「それで、初見さんとはどちらで会ったんです?」
ヒートアップする罵倒の隙を突いて、僕はそれとなく話題を変えた。
友人の一人が『気になるんだ?』と言いながら、ニヤッとした笑みを僕に向ける。
気になるとか…そういう訳では無いのですが……
「それがさぁ、うちの店に指輪を買いに来たんだよ。しかも、男と一緒に!」
ゆ、指輪?
しかも…男とですか?
「担当した女の子の話だと、仲良さそうにペアリングを選んでたってさ!しかも、ダイヤモンド入りのヤツ!」
は?ダイヤモンド?
そ、それってまるで…
「それって、エンゲージリングってやつ?」
友人の一人が、まるで僕の訊きたい事を代弁するかの如く口を開く。
「たぶん、そうだろうな。俺ら、もう結婚してもおかしくない歳なんだし」
結婚って…まさか。
だってあの時、一言もそんな事…言ってなかったじゃないですかっ!

「複雑?」
誰かが僕に訊いた。
複雑とか…そんな感情は、もうとっくに通り越している。
結婚するだなんて…冗談じゃない!
「悪いですが、先に帰ります」
僕はそう一言吐き捨てると、慌ててコートを掴んで店を飛び出した。


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