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二人の恋愛論
【学園物 恋愛小説】

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二人の恋愛論5-1

笠本さんはよく食べる。
特にお菓子。
新発売、期間限定、加えて、付いてくるオマケが可愛いだとかいう物なんかを買い漁っている。
だから、僕はずっと不思議だった。
その割に、人より細い、華奢な体つきが。
でも、合点がいった。
彼女はカロリー摂取量よりも、エネルギー消費量がはるかに上を行くのだ。
普段から無駄な動きが多いし、楽しければよく笑うし、驚けばよく叫ぶ。
そして、悲しければ猛烈に泣く。
「うぅ…もうやだ…立ち直れないぃ…」
今、滝のような涙を流し続けている彼女に、僕は困惑している。
原因は、雨。
今日は遊園地デートの予定で、笠本さんは一週間も前からそれを待ち焦がれていた。
あえなくデート場所へと変更された僕の家に到着するや否や、彼女は泣き崩れてしまってそのままもう小一時間が経過、というわけだ。
「この天気じゃ仕方ないよ。ほら、これでも食べて」
こうなることは予想できたので、用意しておいた秋季限定のお菓子を差し出してみる。
「ありがと…でも今は…ショックで食べられな…うぅ…」
彼女は鳴咽を漏らしながら、小さくうずくまってしまった。
僕は笑いを堪え、彼女の頭を撫でる。
「すっごい…楽しみにしてたんだよぉ…」
「うんうん、そうだね」
「メリーゴーランドに乗った恭介くん…見たかったのに…絶対ほんとの王子さまみたいなのにぃ…」
「うんうん、それには晴れてても乗らなかったけどね」
ビショビショに濡れてしまった彼女の頬を、ティシューペーパーで拭う。
「来週、行こうよ」
彼女は頷きながらも、いまだ不満げな表情。
「俺だって、すごく残念なんだよ?」
「うそ…全然そんなふうに見えないもん…」
「本当だよ。俺も普通の男子高校生だからね。お化け屋敷でどさくさに紛れて、とか、観覧車が頂上に着いたときに、とか、期待していなかったわけじゃないよ」
笠本さんが目を丸くする。
彼女を慰めるためとはいえ、本心を打ち明けすぎただろうか。
そうして数秒の沈黙のあと、不意に、彼女が笑顔を見せた。
「…復活?」
「うん!元気もりもり」
いただきます、と両手を合わせ、彼女は先程のお菓子をパクパクと食べ始める。
「だって来週、お化け屋敷でギュッて抱きしめてくれたり、観覧車がてっぺんに来たときにチュッてキスしてくれたりするんでしょ?」
すっかりご機嫌の笠本さんが、僕の腕に擦り寄る。
僕は勉強が得意で、複雑な数式なんかは割と容易に解くことができるけれど、笠本さんの『ツボ』ってやつは、いつまで経っても理解できない。
まあ、彼女が嬉しいのなら、それでいいのだけれど。
「あとは、メリーゴーランドに乗ってる恭介くんが見れたら、もうカンペキ!」
無邪気に笑う彼女を眺めながら、たぶん来週の今頃、小さな子供たちに紛れ、一人の男子高校生が白馬に跨がり、クルクル回っていることだろう、と思った。


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