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DEEP DIVER玲那〜闇に沈みし者〜
【ファンタジー 官能小説】

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DEEP DIVER玲那〜闇に沈みし者〜-33

「玲那の体にはオロチミタマが宿っているんだ」
 ダイアナの呟きに葵が応じる。
「オロチミタマ…?龍は神社の御神木に封じられているんじゃ…」
「表向きは、な。だが、実際には代々の巫女がその体に封印してきたんだ。鈴鹿山の鬼御前や京都の蛭子様に匹敵するほどの霊力でな」
「でも、それじゃあ、あの姿は封印が解かれて玲那ちゃんがオロチに呑まれたって事なの?」
「いや、オロチと龍の巫女はある種の共生関係にあるんだ。宿主が死ねば封印されたオロチも消滅する。だから宿主を守ろうとオロチが過剰防衛反応を示しているんだ。恐らく神人の亜種に過敏に共鳴しているんだろう」
 そう言うと葵は懐からリボルバー、退魔の銃を取り出すと、手近にいた怪物の眉間に聖別された銀の弾丸を撃ち込んだ。弾はテロメアの再生を断ち切り、神人の細胞を崩壊させる。怪物は悲鳴を上げ、見る間に消滅した。
「悪ぃな。そこまで神人の細胞に喰われちまった人間を元に戻すことは出来ねぇんだ」
 言いながら立て続けに二発、三発……。次々と怪物を葬る葵。そしてダイアナもまた、気を取り直して怪物に向かっていった。
「躊躇いがないって言えば嘘になるけどね…」
 ダイアナの言葉と同時に月狼は退魔の陣を撃ち出した。光の魔法陣が怪物を捉え、紫電が醜悪な怪物達を包み込む。次の瞬間、怪物達は悲鳴を上げて黒こげになった。

「葵とダイアナさん?」
 救援に現れた仲間の姿に玲那は僅かに安堵したが、沸々と湧き起こる殺戮本能に体は戦うことをやめようとはしない。オロチの破壊衝動が玲那のどす黒い怒りに結びついて暴走しているのだ。
 目の前に迫る怪物達に組み付きながらも、玲那は意識の片隅で奈々花のことを案じていた。しかし、ふと視界の端に奈々花の姿が入ると、怪物の一匹が奈々花に襲い掛かろうとするまさに寸前であった。しかし、怪物の手が奈々花に伸びた瞬間、紫電が迸り、怪物は腕を焼かれて悲鳴を上げる。
「奈々花ちゃん、まだお守り持っていてくれたんだ!」
 それが玲那の渡した護符の効果であると知り、玲那は心の中で喜んだ。一方で、奈々花に再び襲い掛かろうとした怪物を、葵が退魔の銃で撃退する。そして、悲鳴を上げて踞る奈々花を月狼が抱え上げた。玲那はダイアナの心遣いに感謝しながら、目の前の怪物を二つに引き裂き、続けざまにもう一匹の額を掴み、頭を引き抜く。
 やがて、いくらもしない内に怪物達は血溜まりの中に累々と屍を積み上げることとなった。
 玲那は肩で息をしながらも、飛騨の姿を探した。もしかすると怪物達を盾にして、自分だけは先に遁走しているかも知れないとも思われたが、意外にも、飛騨の姿は玲那が捕らわれていた磔刑台の真向かい、吊り下げられた神人の真下にいた。
「一体何を?」
 玲那は訝ったが、飛騨はそのまま神人の前に立ち、着衣を脱ぎ捨てた。見ると体の至るところに古代文字で何やら呪文が書かれている。
 飛騨は厳かに両手を拡げると、体中の文字が光り、その輝きはどんどん増していった。そして、それに呼応するかのように玲那の中のオロチが勢いを増し、玲那は体中の血が逆流しているかのような目眩を感じた。耳鳴りがして思わず膝をつく玲那。咄嗟に葵達の方を振り返るが、月狼が魔法陣を張って葵と奈々花を守っている。
 そうしている間にも耳鳴りはどんどん酷くなり、目の前の光は増していく。目が開けられないくらいの目映い光の中、飛騨は神人の体に手を伸ばし、その中へと消えていった。
 飛騨の体が神人に完全に飲み込まれると、光はやがて収束し、辺りには瘴気が充満し始める。
「この感覚、あの古代の神人が復活したというの!?」
 ぴりぴりと肌を刺す緊張した空気に、玲那は思わず身震いした。そしてその瞬間、古代チラダの守り神、悪神の双眸がゆっくりと開き始めた。

 今から数分前、飛騨は自ら生み出した異形が、次々葬られていくのを見て、歯噛みして悔しがった。しかし、鎮魂機関の新手が現れ、敗北が揺るぎ無いものと変わったとき、飛騨は施設を放棄することを決意した。事がここまで大きくなった以上、それしか道はない。今思えば改造初期段階の人造神人が、その霊力を使って脱走したことが悔やまれる。だが、何をどう悔やんだ所で後の祭りである。
 そこへ、ふと誰かが飛騨の耳元で何事か囁くのが聞こえた。最初は空耳かと思い、気にも留めなかったが、それが次第に大きく、はっきりとしてくるに連れその言葉を聞き取ろうと心を集中させる。


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