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春雨
【純愛 恋愛小説】

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春雨-3

「…よく知ってるわね。」 「家の親も紅茶好きなんで少しは、ね。 今度、来るとき茶葉買ってこようか?」 「何が好きなの?」 「…アッサムかな」と、答えると春美さんは 「楽しみにしてる」と、微笑んでくれた。 水曜日 月曜に行けなかったため前回から少し間が空いてしまった。 彼女はもう、違う茶葉を買って大好きな紅茶を楽しんでいるだろうが、俺は約束通り茶葉を買ってやって来た。 ピンポーン 彼女の部屋のインターホンを鳴らすが全く反応がない。 …ケータイを取りだし、時間を見ると19:15…帰っていてもいい時間なのに…。 もうすぐ転勤だから引き継ぎが長引いて残業でもしているのだろう…と、思い直した。 少し、マンションの前の公園で待ったが帰ってこなかった為、俺は再び中へ入り管理人室へと向かった。
今日は親が珍しく帰っている為、9時前には帰らなくてはならなかった。 管理人室へ行き預かってもらおうとした。 「すみません、2001号室の方に用があって伺ったんですけど、『2001?』」 俺の言葉を遮り管理人は言った。 「…あ、はい」 「…内山さんなら引っ越したよ」 彼の言葉に俺は持っていた紙袋を落としてしまった。 「えっ…? …こんな半端な時期に?」 転勤のことは知っていたが今日はまだ三月の半ば…半端な時期だ。 「ああ、結構急だったね。 東京に転勤らしいけど。 内山さんに用あったの?」 「…」 管理人のおじさんの言葉も入ってこない…俺の思考は停止していた。 春美さんの連絡先も勤め先も…俺は何も知らない。 頭が真っ白な状態で、俺は管理人さんに頭を下げ、その場を後にした。 帰り道、雨が降ってきた…。 俺は今までとは違う気持ちで雨に打たれていた。 . 「…将生[マサキ]様!」 ずぶ濡れで帰ってきた俺に玄関先を慌ただしく動きまわっていた使用人の一人が驚きの声を上げた。 「今、タオル持って参りますからすぐに浴室にっ!」 そういって寄ってくる使用人に 「放っといて」と、冷たく言い放ち俺は自室へ向かった。 自室のシャワーを浴びながら拳を壁に叩きつけた。 何かに当たらなくては己を保っていられなかった。 比嘉[ヒガ]財閥…それが俺の実家だった。 祖父が一代にして築き上げ、今は主にIT関連機器を扱う会社を経営している。 家の金・力を使えば春美さんを探し出すことは容易いだろう。 しかし、俺にそれは出来なかった。 彼女は、俺はもう大丈夫だと思い離れたんだろう・・それに、あの時の様にまたどこかで会えるような気がしたから。 . あれから一週間 俺は春休みに入り、毎日無気力に過ごしていた。 「将生」 着物を来た初老の女性ー祖母に声を掛けられ、俺は顔を向けた。 「…何ですか?」 「お見合いして」 「……家の会社そこまで業績悪かったんですか…?」 俺の言葉に祖母は苦笑した。 「業績は順調ですよ」 「じゃあ、何で…」 「正直に言えば、このお見合いはお祖父様が相手方の会長さんと久しぶりに会うための口実ですよ。」 と言って祖母はため息をついた。 「…じゃあ、相手の方と会うだけで良いってことですよね?」 「お互いが気に入れば話は別ですけどね。 まぁ、恋愛は自由だし強制なんて出来ませんよ。」 「わかりました」 そう言って俺は苦笑した。 . それから10日後 スーツ姿の俺は名古屋の某高級ホテルのロビーに立っていた。 相手の顔も名前も俺は知らない。 釣り書があったが見る必要性を感じなかったため見ていなかった。 「…比嘉会長…?」 聞き覚えのある女性の声に俺は勢いよく振り返った。 「あぁ、久しぶりだね。みぃちゃん」 祖父の言葉に頭が真っ白になった。 目の前の艶やかなピンク色の着物を着た女性…。 ・・春美…さん…? 「御無沙汰しております。 祖父はもうすぐ到着予定ですので…お待たせして申し訳ございません。」 女性は優しく微笑み、祖父に頭を下げた。 声は確かに春美さんだが…俺には信じられなかった。みぃ…って何? 「将生」 不意に祖父に呼ばれ、俺の思考は現実へと引き戻された。 「…久し振りね。」そう言って彼女は微笑んだ。 …やっぱり、春美さん…。 . 「…お久しぶりです」 俺が返すと、祖父に 「知り合いか?」と、不思議そうに尋ねられた。 「えぇ…以前何度かお会いしたことがあります。」と、彼女は笑顔を崩さず答えた。 彼女は俺の知る春美さんとは少し違った。 …っていうか、じい様の友達の孫…って事は…春美さんって・・。


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