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アイしてる★☆
【悲恋 恋愛小説】

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アイしてる★☆-10

第九話『転調』
その日は秋晴れだった。
昨日カナタが涙を流した場所に、『男』はいた。すらっと伸びた高い背に、きちんと散髪された、少し長めのショートカット。整った目鼻立ち。マモルをイマドキのイケメンと言うなら、『男』は正当派美男子と呼ぶにふさわしかった。
「長いこと待たせてしまったわね、申し訳ないわ」
昨日は不気味さをかもしだしていた『老婆』だったが、今はすっかり『理事長』という分厚い仮面を被っている。それは全く逆の顔で、今は親しみや好意さえ感じた。
「とんでもない。僕を選んでくださって、嬉しい限りです」
にっこりと目の前の人物は微笑んだ。
完璧な、笑顔。
「あの方はわかってはいない・・理事長がどれ程の思いで見守っているのかを」
あわれんだ声で言う。理事長はふと悲しみの表情を見せた。
「よろしく頼むわ・・」喉の奥から絞り出すような声を放つ。
返事の代わりにもう一度優しく微笑むと、その男は部屋を出ていった。

静まりかえる、部屋の中。
理事長は呟いた。

「カナタ、絶対に辛い思いはさせないわあなたはー・・私なんだから」
歪んだ愛情が部屋中に漂っていた。
はしゃぐ生徒。慌てる教師。うつ向くカナタの隣にはー・・『正当派美男子』がいた。
「き、キミ!桜華様に馴れ馴れしくするんじゃない!!さっさと離れたまえ!!!」
『正当派美男子』は、カナタの肩に腕を回していた。
「僕達、愛し合ってますから★」
にっこりと、鉄壁の笑顔が教師達を襲う。女生徒の黄色い悲鳴が飛び交った。
「いい加減にしろ!お前のような怪しい輩の言うことなど信じられん!」
「帰りたまえ!!!理事長を呼ぶぞ!」
校門の所に不審人物がいるという言葉を聞き、新たな教師達が駆け付けた。しかし教師達は騒ぎを静めるどころか、ますます大きくしていることに気付かない。
女生徒はいきなり現れた男の真意よりも、そのルックスにメロメロだった。
男子生徒は呆然とその様を見、野次馬を作っている。

そして彼等は『桜華カナタ』の存在をいつのまにか忘れていた。
しかし、それも束の間の出来事。

「うるさい」

カナタのぼそっと、しかしよく通る声が空気を震わせて彼等の耳に届いた。
その場は騒然となり、一気に空気がぴんと張り詰める。
人々の瞳には恐怖に染まっていた。
ただ一人を除いては。
「では、参りましょうか・・桜華様」
さっきまでの軽い態度とは異なり、一転して紳士な態度になる。二人は並んで校舎へと歩き始める。
ふと、男は足を止め、恐怖した人々を振り返る。するとまた歩き出し、校舎の中へ姿を消した。始終ぴったりと、二人は寄り添っていた。


人々は男が振り返り様に見せた、冷酷な笑顔を瞳に焼き付いていた。

キーンコーンカーンコーンー・・

始業ベルが鳴っても、二人以外に校舎へ足を踏み入れる者は誰一人としていなかった。

・・人だかりの中に、ぐっと唇を噛み締める男の存在があった。


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