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追いかけて来た、太陽!
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追いかけて来た、太陽!-1

 片田舎にある農家、そこが俺の実家である。
 高校を卒業して大学に進学するため、俺が家を出て早7年。一端の大人に成った俺は県警の刑事だったりする。
 就職活動のおり、偶然見つけた警察官の公募に応じたのがきっかけで、別に正義の味方に成りたかった訳ではない。
 俺の名は『曽我 仁一(そが じんいち)』。駆け出しの新米刑事である。

 事件を追いかけて、こんな片田舎まで遣って来た訳ではない。お盆になれば、毎年のごとくの恒例行事と言ったところだ
ろう。親父の墓参りを兼ねての、里帰りである。
 実家にはお袋と、兄貴夫婦が住んでいたが。お袋もまだまだピンシャンして元気だった。今日も朝からゲートボールだっ
てよ。
 そんな兄貴夫婦には14歳になる娘が居た。少しおてんばだが、顔立ちの整った可愛い女の子だ。元気で明るい中学生っ
てなもんだろう。
 そんな兄貴の娘『香奈華(かなか)』であるが。小さいころから遊んでやったせいか、妙に俺になついているところがあ
る。今日も、来なくも良いのに、見送りをするんだと言い張って、俺の後に付いて駅まで遣って来ていた。
「いいから、お前はもう帰れ!」
 俺が迷惑そうにそう言うと、香奈華も一瞬膨れたような顔をしたが、すぐに。
「やーだっ! お兄ぃと居る」
 そう言って効かない。
「はぁん。居てもいいけど、暇だぞ。電車……後、一時間は来ねーからな!」
 俺は少し嫌味のつもりでそう言ってのけると。そんな俺に向かって、香奈華も「べーーだっ!」何て、舌を出して見せて
いた。まったくガキの相手は疲れるぜ。

 俺の田舎には私鉄の路線が有った。寂しい程列車の本数が少ない、所謂、田舎のローカル線である。上下線合わせても1
時間に1本も無いような、極めて列車本数の少ない、田舎鉄道である。
 その終着駅とも言える、ここ『武甲岳登山口駅』が、実家に一番近い駅でもあり。終着駅と言っても、ホームが一本きり
の『無人駅』である。
「電車来ないね……」
 何やら会話も無く押し黙って居る事に飽きてきたのか、香奈華は、腰を降ろしたベンチから足を浮かせブラブラさせなが
ら、そんな事を言って来る。
「だから言ったんだ。付いてくるなって」
「だってさっ…… 今日、お兄ぃ帰っちゃったら、また正月まで会えないじゃん……」
 更にそんな事を言いながら、俯いて目の辺りを擦っていた。
「泣いたって駄目だぞぉ。俺だって忙しいんだ、休暇だってそんな取れやしないんだから!」
 俺は香奈華の顔は見ず、腕を組んで空を仰ぎ、少し怒った様な口調で彼女にそう言った。
 実際、俺は香奈華の事を嫌っている訳じゃぁ無い。妹みたに慕ってくる彼女の事は大好きだった。
 田舎で暮らしていて友達が少ないのも解る。俺も同じだった。だからってシスコンでも有るまいし、いつまでも身内にく
っ付いてないで、早とこ彼氏でも作って、青春をエンジョイさせて欲しいとも思っていた。
 気の利いた事を言って遣れない自分自身の歯痒さに、俺自身が照れて居ただけかも知れない。

 さしたる会話もなく、俺と香奈華は、まだ日も高くサンサンと照りつける太陽の眩しさに目を覆いながら、まだ来遣らぬ
列車を待ちつつ、ボーッと向かい側に連なる山々を見詰めて、時間が経つのを待っていた。
「あぁあ〜…… もっとお兄ぃと居たかったなぁ……」
「何か言ったか?」
「うぅ〜ん。……何でもない……」
 本当は香奈華の声など、良く聞こえていた。今回の帰省では、俺も彼女をかまってやる暇がなく、寂しく感じていたのだ
ろう事は、薄々感じてたりもする。が、すまない。溜まっている仕事も山ほどあるし、刑事で有る俺が居ない間に凶悪な事
件でも起きていたら…… やはり休暇を伸ばす訳にはいかない。
 そう思いながらも、俺は黙って電車を待っていた。
 そんなおり。
 ふと見れば、線路脇に有る、あぜ道の様な細い通りの隅っこに、壊れて要らなくなった物なのだろうか、古びた薄い水色
の自転車が一台、放置して有るのが目に付いた。主に見捨てられ、あちこち錆だらけのみすぼらしいママチャリは、放って
置けばそのまま朽ち果てるだろう代物のようである。
「あれっ……動くかな……」
 真剣に思った訳では無い。何となくそう思ったまでである。しかしそんな冗談とも取れる言葉を香奈華は真剣に受け取っ
たのだろうか、真面目な顔をして「動けば、本線の駅まで行けるのにね」っと、微笑み混じりの顔を俺に向けていた。


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