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追いかけて来た、太陽!
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蟻とギリギリッす! 〜追いかけて来た太陽 番外編〜-2

 こうして蟻は炎天下の中、大きなセミの死骸などを集めて、毎日毎日働き。そしてとうとう……倒れたのです。
「だから言わんこっちゃねーーっ!!」
 キリギリスは慌てて、倒れた蟻を抱き起こしましたが、手遅れでした。
 蟻は炎天下の中、長時間の労働をしていたせいなのか、日射病と脱水症を起こし、加えて連日連夜の重労働が祟り、とうとう過労死してしまったのです。
 キリギリスは死んだ蟻のために、女王蟻に掛け合って労災保険を請求しようと、訴訟(そしょう)を起こしましたが、巨大な国家権力の前に、たかだかストリートミュージシャン風情が太刀打ち(たちうち)出来る訳も有りません。
 最高裁まで争いましたが結果は敗訴(はいそ)。やむなくこの件は人々の記憶からも消えてなくなりました。
 
 皆さん、秋になったら耳を澄ませてごらんなさい、死んだ蟻のために歌う、キリギリスの鎮魂歌が聞こえて来るかもしれません。

 〜〜〜〜〜

「嫌っやーーーっ! そんなの嫌ーーーぁあっ!」
 何を思ったのか、香奈華は突然そんな事を叫びながら、地べたに仰向けになって寝転ぶと、ジタバタと手足をもがいて、滝の様な涙まで流しながら、暴れ出した。
「何やってんだお前っ! って言うか、お前途中から勝手に変な妄想してたろっ!」
 仁一は慌てて香奈華の腕を引っ掴んで、起き上がらせると「おいっ! しっかりしろっ!!」とばかりに、
彼女の頬(ほほ)を軽く叩いた。
「はっ!」
「『はっ!』じゃないだろっ! 『はっ!』じゃっ! お前今、変な世界へ行ってたろ」
 香奈華は正気を取り戻すと、慌てて仁一に抱き付き。
「いやぁ〜〜っ! 蟻ん子はいや〜〜! 辛いのはいや〜〜! 死ぬのはもっといや〜〜〜!」
 そう言って号泣しだす。
「あーあー解った解った! 生きてる! お前は生きてる! だから落ち着けってっ!!」
 仁一も、香奈華が何を言いたいのか察し得なかったが、それでも彼女の頭を抱えて、その頭を優しく撫で回していた。
「せつないの! 蟻ん子はせつな過ぎるの…… あたし…あたしやっぱり人間が良い!」
「はぁ?」
 正直言って仁一には香奈華の考えている事など全く持って、解らなかった。それでも彼は香奈華を宥(なだ)めて、「解った、解った」を連呼する。
 そんな仁一の顔を見上げて、香奈華はまたまた大泣きすると、もはや仁一の一張羅(いっちょうら)のスーツもヨレヨレだったりする。
 
 しばらく泣いて気が晴れたのか、香奈華が言った。
「お兄ぃあたし、喉(のど)が乾いたぁ」
「っんだよそれーぇ! 馬鹿みたいに泣いたりするから身体の水分が無駄に減るんだっ!」
「お兄ぃジュースおごってぇ」
「しょうもないお嬢さんだなぁー! まったくぅ!!」
 仁一はそう言うと、どこか適当な自販機でも探すべく、頭を掻きながら渋々と歩き出す。
 香奈華もそんな仁一の背中に張り付いて、歩き出す。
 すると何やらかを思い出したのか、香奈華は慌てて蟻の巣へと駈け戻って来ると、蟻達がせっせと運んでいた食パンの耳を、つま先で蹴飛ばして、蟻の巣穴近くへと転がした。
 そしてニッコリ微笑むと、また急いで仁一の側へと駆け寄って、彼の腕にしがみ付いていた。
 そして何食わぬ顔で、
「あたしぃお兄ぃーと一緒なら、苦労してもいいよぉ」
 そんな事を言って、照れながらペロっと舌を出していた。
「なんだよそれ、解っんねーギャグだなぁ」
 仁一は相変わらず、朴念仁(ぼくねんじん)だったりする。香奈華の、どさくさ紛れの言葉の意味など解ろうはずも無い。
 
 どうやら今年の夏も暑く成りそうである。くれぐれも日射病や脱水症などにかからぬ様、皆々様のご健康をお祈りしつつ。
 ……おしまい。


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