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ユビワ
【悲恋 恋愛小説】

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ユビワ-2

「ごめんなさい」
華奢な背中が、さらに小さく見える。
コンドームを外しながら謝罪、だなんて。
「早過ぎですよね、俺」
「ちゃんと気持ち良かったよ」
「でも、イけてないじゃないですか」
彼が物悲しそうに呟く。
私は後ろから彼を抱きしめ、頬に口づけた。
「雅さん…」
「最初から上手くできる人なんていないよ」
一ヶ月程前、会社の打ち上げの帰り道が同じで、酒の勢いで身体を許してしまった。
ちなみに、事が終わってから彼は私が初めての相手だったことを告白してきたが、それはキスの時点から何となく気付いていた。
「いまどき、遅れてますよね」
「まぁ、圭くんはモテそうだから意外だったけど、別に普通なんじゃない?まだ二十三でしょう?」
フォローのつもりが、彼はムッとして身を離した。
年齢の話や子供扱いは、彼の機嫌を損ねてしまう。
それがまた幼いのだということがわからない彼は、やはり子供だ。
「雅さんだって、まだ二十六じゃん」
「まだって…」
「三つしか変わらないよ」
確かに、言われてみればそうかもしれない。
あの人は三十八だから、私との差は十二歳。
それに比べたらたいしたことはない。
あの人と私の場合は、それ以前にとても大きな問題があるけれど。
「俺たちって、何なんですか?」
俺たち。
私と彼がひとまとめに表されるのは、強い違和感があった。
つまり、私の中での彼の存在は、残念ながら極めてちっぽけだ。
「何だろうね」
淡い期待を抱いていたであろう彼は、瞬時に険しい表情になった。
「セフレ?」
否定したところで、面倒が増えるだけだ。
私は一気に怠惰に巻かれ、投げやりに答えた。
「そうかもね」




グーじゃなかっただけマシかも。
平手打ちを受けた頬を摩りなから、私は苦笑する。
「さむっ…」
冷えた風が吹き抜けた。
冬が近いらしい。
頬にあった手をポケットに隠し、身を縮める。
彼と身体を重ねたあの日、打ち上げで、あの人が奥さんに電話をしている姿を見かけた。
寂しさを紛らわせようとしたことが、余計に惨めな思いをするはめになってしまった。
「寒いなぁ…」
不意に、あの人の笑顔が浮かんだ。
もう、限界かもしれない。
彼は私の気持ちに気付いているだろうし、私に対して多少の興味は持ってくれているはずだ。
きっと、私が一歩踏み出せば、すべては始まる。
私はバックから携帯電話を取り出した。
彼の番号を表示し、発信ボタンを押す。
違う。
始まるんじゃない。
終わるんだ。
すべてが、終わる。
寒さに凍えながら、呼び出し音に耳を澄ます。
『はい』
「会いたいです」
『有住?』
「会いたい」
『…予定、あるんじゃなかったのか?』
からかうような声が聞こえた。
私は溢れてくる想いをせき止めるように、携帯電話を握りしめる。
『俺も』
初めて耳にする、優しい声。
『俺も会いたい』


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