投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

ちゆき
【その他 恋愛小説】

ちゆきの最初へ ちゆき 1 ちゆき 3 ちゆきの最後へ

ちゆき-2

「わたしね、体売ってるんだ。そこら辺の知らないおじさんに。回数は週に三、四回。一回数万円でさ。」
 正直その発言には驚いたが、それで今までのことも納得がいく。俺は黙って話を聞いた。
「最初はね、知らないお兄さんに犯されたの。その時礼金とか言ってお金をくれたの。まだ高校入る前かな…?そのお金を持って家に帰ったらうちの両親驚いてた。まぁ当たり前だけどさ。そしたら両親何て言ったと思う?『この金はどうしたんだ?稼げるんならもっと稼いでこい!』よ?服をボロボロにして返って来た娘に対してそれだもん、やんなっちゃうわ…」
「…っていうか、なんちゅう親だ…」
 さすがにそれには黙っていた俺も呆れてしまった。
「でも私は子どもすぎた。これでいいんだって思っちゃった。うちの両親酒浸りだから、考えが普通じゃないって気付けばよかったのに…気付けなかった。それからよ、こんな風にし始めたのは。」
「んで、今でも親にその金を?」
「ん、たまにお札の一枚か二枚を…ね」
 やっぱり親は見捨てられないか…。にしてもこいつはたいした女だ。俺は心からそう思った。
「もう当たり前の生活になっちゃったからさ…今更どうしようとか思わないわ。」
「じゃあ、俺と初めて会ったとき、何であんな寂しそうな顔してたんだよ?」
「…寂しいからに決まってるじゃない」
 ちゆきは下を向いて喋り続ける。
「人の優しさとか温もりとか一切感じられないんだよ?誰からも愛されてるとか感じられない…どんなに辛いか…あなたにわかるの?」
「…わかるかも…しんねぇ」
 ちゆきは顔を上げた。その顔はこらえつつも涙を流していた。
「親はいつも仕事で遅くなるし…それによ、何でいつもいつもお前が指定した時間に来れるかわかるか?俺にはな、誰も話したりつるんだりする奴がいねぇんだよ。俺も…お前程じゃあないかもしれないけど…やっぱ一人の時が多いからな」
 俺は恥ずかしくてちゆきから目を背けた。
「そう…でも、私のこと軽蔑したよね?こんな汚れた女、いやだよね…?ごめん、もう会わないから…」
 そう言ってちゆきは部屋から出ていこうとする。
「今までこんな私に付き合ってくれてありがとう。…さよなら」
 今部屋からちゆきを出せば、もうちゆきと会うことは無くなるだろう。携帯の番号は登録してあるけど、それもいつまで持つか分からない。それこそ最後の別れとなってしまう。
「…どうしたの?」
 無意識の内に、俺はちゆきの腕を掴んでいた。
「えっと、これは…」
 自分でも何でちゆきの腕を掴んでいたのかは分からない。ただ、もう会えなくなると意識しだしたらの行動であろう。
「ダメだよ…もう私に構わない方がいいよ?最初に誘ったのは私だけど…もうあなたを汚したくないよ」
「汚れる…か。そっか…そうなんだよな」
 俺はそれまでの疑問が一気に解決し、と同時に何かが吹っ切れた。
「お前が俺を汚そうがもう手遅れだ。もう俺は汚れてるよ」
「え?」
「一ヶ月もお前と過ごしてんだ。もう既にお前がいる生活が当たり前になってたんだ。まぁ俺自身気付かなかったけどさ。だからお前との生活で俺が汚れるんなら、とっくに汚れきってるよ」
「…でも、まだ私程汚れた身体じゃないでしょ?」
「いいや、お前は汚れてなんかない。綺麗だよ」
 俺はちゆきの頭を撫でながら語り掛ける。
「それに、汚れてても俺が綺麗にしてやる。生活も身も心も、お前の全部をな」
「え?」
 ちゆきの頭に疑問符が浮かんでいる間に、俺はちゆきを抱きしめていた。
「あっ…」
「温もりが欲しいんだろ?それに愛情も。…欲張りだなぁ…お前は」
「しょ、しょうがないじゃない!今までもらえなかったんだもん…」
 ちゆきは恥ずかしそうに、俺の腕の中でもがいていた。
「やるよ。優しさも温もりも…愛情も。今まで頑張ってきたご褒美だ」
 今更だが、何故に俺はこんな恥ずかしいセリフを真顔で言えたのだろうか?もちろんちゆきは顔を真っ赤にしておとなしくしている。
「…いいの?私なんかでさ」
「さてさて、はたして俺以外でお前をもらってくれる奴がいるかな?」
「…ばか」
 ちゆきは俺の背中に腕を回した。
「付き合おう、ちゆき」
「うん、…えーっと、うーんと…」
「…お前、俺の名前忘れたのか?工藤洋一だよ。ったく…」
「ごめんね、洋一…あ、私の苗字は『愛川』っていうの」
「『愛川ちゆき』か…よし、覚えた」
 俺がそう言った時、ちゆきは俺の唇を奪ってきやがった。
「ち、ちゆき…」
「ねぇ洋一」
「ん?」
「優しさと…温もりと愛情、感じさせて?」
 突然の言葉に俺は理解ができなかった。
「だから…カレカノになって初めてだけど…しよ?」
「…わかった。優しさと温もりと愛情、たっぷりと注いであげましょう」
 俺はちゆきに口付けをしてからベッドへとエスコートした。
 俺達が、愛情の篭った温もりを感じた瞬間だった。

 この後、ちゆきは身体を売ることを止め、通信制の学校に通いながらバイトをしている。俺も高校を卒業したら就職しようとは思ってるけど…にしても、ちゆきは以外と堅実だった。それまでのちゆきの蓄えはかなりの額だったのだ。
「だって、洋一と会う時ぐらいしか贅沢しないもん」
 ちゆきはそう言っていたが…少しの間、彼女を頼りそうだ。もう一つの驚きは…彼女は俺よりも一つ年下である。俺は18になったから…彼女は17才、高校二年生(のはずだったけど退学した)とのことだ。

 まぁ何にせよ、俺はちゆきと一緒にお互いを想いあっていこうと思う。それがちゆきにとっても俺にとっても必要なことだと思うからさ…。

愛してるよ、ちゆき…


END


ちゆきの最初へ ちゆき 1 ちゆき 3 ちゆきの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前