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ちゆき
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ちゆき-1

 俺、工藤洋一があの女と知り合ったのは一ヶ月前。知り合ったとはいえど、女の容姿以外で知ってることと言えば『ちゆき』という名前と携帯のアドレスと番号くらいだ。あとはよく知らない。
 それなのに俺は待っている。学校が終わり、いつもの場所で。
 家の近くの公園にある大きな木の下で。

「やっほー!待った?」
 小柄な体つきで腕を大きく振りながらやってきた。みゆきはいつも私服でくる。学校帰りの俺は制服姿だが。
「俺も今来たとこだ。ったく、授業中に電話するな!出られるわけねぇって何回言わせんだ?」
 学校はどうしたなどとは聞かない。聞いても無駄だから。
「だってメールしても返ってこないんだもん…」
「だから授業中だっつってんだろ?」
 ちゆきは俺と同じくらいの年…つまり高校生くらいに見えるが、その年齢は未だに教えてはくれない。謎の多い女だ。
「まぁいいじゃん。行こうよ!」
「…はいはい」
 そんな謎の多い女に腕を引っ張られ、俺は自宅へと向かう。

 両親は仕事でいつも帰りが遅い。だから普段、家には俺しかいない。
 そんな中、俺は自室のベッドの上でみゆきを抱く。みゆきと会う時は必ずと言っていいほど体を重ねる。別に付き合ってはいない。ただ、向こうが俺を求めてくるから。俺だって健全な男なわけだし、そういった欲求だってある。不思議に思うことと言えば、何故俺は名前と少しのことしか知らない女を自室に連れ込むのかということくらいだ。それも最近じゃ当たり前として定着してきている。

「ふぅ〜…」
 行為の後のちゆきは窓の外を見ながらため息を吐く。彼女いわく、
「生活に疲れた」
だそうだ。
「なぁ、何で俺んとこきてこんなことすんだ?ため息だって毎回のようについてんのに…」
 服を着ながら聞くと、ちゆきはこちらを振り返って答えた。
「わからない。けど、結構落ち着くのよ。こうしてると」
 ちゆきは服を着込むと部屋を出ていこうとした。
「今度はお土産でも持ってくるから」
「んな気ィ使うな」
 ちゆきがたまに持ってくる『お土産』は、どれも高そうなものばかりだったから。
「いいから。またよろしくね」
 ちゆきはそう言って、俺の家から去っていった。
「またって…あのなぁ…ったく…」
 誰もいない部屋の入口に向かって俺は呟いた。

 ちゆきとの出会いは一ヶ月前の雨の日、いつもの待ち合わせ場所であるあの木の下でだ。あそこは雨宿りするにはもってこいな場所だから、俺はそこに立っていた。その隣にたまたまちゆきがいただけのことである。
 あの時のちゆきはとても寂しそうだった。だからあの時の俺はちゆきに声を掛けた…いや、掛けてしまったのだ。
 そしたらちゆきは俺のことを誘惑してきて、あろうことか俺をラブホテルに連れ込んだのだ。まぁお互い私服だったからバレなかったからよかったけど…。

「ねぇ、お金は私が出すからまた会えない?」
 ホテルを出てのちゆきの第一声がそれだった。
「はぁ?…ったく、何考えてんだ?お前は」
「あなたと会うこと」
 ちゆきは笑いながら笑いながらそう言った。

 それが冗談かと思ったら、(未だに何故教えたか分からないが)教えておいた俺の携帯のアドレスにメールが来たのだ。
『また会いたい』
と。

 学校の友達の少ない俺には放課後の時間などすぐに空けられる。いつメールが届いても、俺の都合で会えない日など殆ど無かった。
 そして、ほんとに頻繁にラブホテルに行くようになり、俺は自分の家に来るようにと言った。流石にこう何度もラブホテルに行くのも見つかりそうで危ない。それに家には親もいないし、やることはわかってるから。

 それがちゆきとの交遊歴だ。これはいわゆる『セフレ』って奴だろうか?まさか自分がそうなるとは思わなかったが…。でも、一ヶ月経った今でも、最初のちゆきの寂しそうなあの顔は忘れてられなかった。

 一番最後にちゆきを抱いてから数日と経たないうちに、ちゆきと再び会うことになった。今日は有名なケーキ屋のケーキをお土産として持ってきていた。やはり高価なものである。
「なぁ、なんでこんなのをくれるんだ?」
 自分の部屋に連れ込んでからだが…俺は今まで気になってことを、今日初めて口に出した。
「いらない?」
「そうじゃなくて、…何でこんな高そうなもんばっか買ってくるんだ?最初の頃も、ホテル代全額出しててくれてたし…」 何故こいつはそこまでの金を持っているかもわからないしな…。
「…いつもこんなことの相手してくれてるお礼…かな?」
 ちゆきはそう答えた。答えたと同時に俺は見ることができた。初めて会った頃に見た、あの寂しそうな表情を。
「…なぁ、何か悩みがあれば言えよ。何でも聞いてやるから」
 ちゆきは不思議そうに俺のことを見つめた。
「そんな風に見える?」
「あぁ、そんなんで悩みが無いって方がおかしいぜ」
 俺がそう言うと、ちゆきははぁ…と深いため息をついた。
「…私のこと軽蔑するかもしれないけどいい?」
「別に。お前が話せればでいいよ」
 ちゆきはそれから深く深呼吸をしてから話し出した。


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