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コンフリクト T
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コンフリクト T-4

「そう仰いましても、頭は白嵐の……」

ふと、翔が立ち止まる。飯田は会話を止め、翔の見つめる先に視線を動かす。
飯田の表情が強張る。辺りを見回すと、自販機に灰皿──昨日翔が揉めたという現場である。しかし、翔が足を止め、また飯田が表情を強張らせたのは、それが原因ではない。
翔の見つめる先には、昨日翔と揉めたヒロさんと他2名、そして、谷口祥の姿があった。
西軍、坂巻工のトップ谷口祥。翔も飯田も、当然その存在を認識していた。
白嵐率いる東軍と、坂巻工率いる西軍は、拮抗する戦力を持ち、ここ数年は睨み合いが続いていた。
小競り合いは幾度も起きているものの、互いに期を伺い、抗争が表面化するには至っていない。現在東軍最強と言われる飯田が白嵐に入学し、新たなトップが誕生した後は、さらに東西の干渉は少なくなっていった。
力でのし上がり、西軍を支配した谷口が、このまま睨み合いを我慢出来る筈はない。
飯田は、いつか来るであろう抗争の時、そのきっかけは今でないかと、危惧せざるを得なかった。
東西最強の2人が相対して、何も起きない訳がない。飯田は、今までの穏やかさからは想像もつかない猛禽類の如き鋭い視線を、谷口へと向けた。

「青い髪……飯田斎か。ハハッ、今日はテメーにゃ用はねー」

睨み合いから生まれた沈黙を、唐突に谷口が破る。それも、飯田にとっては意外な答えで。
面食らう飯田に構わず、谷口は続ける。

「用があんのは、そっちのおチビちゃんだよ。おい、間違いねーのか」

谷口は顎で翔を指し示し、傍らのヒロに確認を求める。ヒロは頷き、肯定の意を示した。

「ボクに用かよ。ライオンみたいな頭のニーちゃん」

翔は谷口に向かい、太々しく応じる。飯田の仲裁などどこ吹く風、である。
谷口は目を見開き、暫しの沈黙の後、豪快に笑い出した。
ひとしきり笑い終えたか、谷口は打って変わって表情を引き締め、獣の如き目が翔を捉える。低く、重い声が発せられた。

「ウチのモン、やってくれたそうだな? その学ラン、白嵐みてーだが、この意味分かってんのか?」

谷口の言葉に、翔は押し黙る。
まさに飯田の懸念していた事だった。 元を辿れば仕掛けたのは向こうでも、手を出したのは此方である。
このままでは、表向きには白嵐が宣戦布告した形になるだろう。傘下に十分な情報を与えないままに抗争が表面化すれば、士気も得られず纏まりを欠いた東軍は、間違いなく反対に士気の高まった西軍に押され、牛耳られてしまう。
それだけは避けなければと、前に出ようとする飯田。しかし、翔がそれを制した。

「頭……!」

「黙ってなよ斎は。ふふ、ママにはお仕置きしてもらった? 悪い子でちゅね〜ってな!」

この期に及んで嘲る余裕を見せる翔。その図太さ、奔放さに憤慨するヒロ達を制し、谷口が翔の元へ歩み寄る。
まるで巨大な壁が迫って来るかのような圧迫感に、翔は思わず息を飲み、飯田はもしもに備え、静かに身構える。
翔の眼前に、谷口が佇む。
谷口の、飯田よりも一回り大きな体躯、突風のようにぶつかってくる闘気、小動物を踏みつけているライオンのように、今にも獲物を食い殺さんと見下す目。
そのどれもが、西軍トップに相応しい迫力と威圧感を与えていた。伊達ではないと。
谷口は翔を見下ろしたまま、呟くように、しかしドスをきかせた声で言った。

「まだ言う事あるか……坊や」

如何なる返答であろうと、翔に手を出す事は雰囲気から明白。飯田は拳を固め、いつでも飛び込めるよう態勢を整える。
翔は暫し俯き、若干の沈黙。そして、顔を上げた翔の口から放たれた言葉は。


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