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コンフリクト T
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コンフリクト T-1

?『煙草ポイ捨て火事の元』



織戸翔は、授業を終え帰宅の途についていた。
翔は、真っ白な開襟シャツの上に、小さな体格には不釣り合いに見える大きめの学ランを羽織り、穿いたズボンはやや太めにも見える。
その雰囲気は、如何にも不良高校生──そんな出で立ちである。
格好は不良とはいえ、翔は街中で横柄に振る舞ったり、すれ違う人々に睨みをきかせるなどという事はしない。
今も、お年寄りに尋ねられた道順を教えている所だった。

「でさぁ、コンビニあるから、そこを左ね。そこに新井さん家あっから」

ソプラノを思わせる、凜とした声。
翔が手取り足取りジェスチャーを交えながら説明をすると、お年寄りは何度か頷き、深々と頭を下げようとする。翔は、慌てたように労る仕草を見せる。

「いいって、腰痛めっから。気を付けて行けよ」

翔の言葉に、お年寄りは皺の寄った顔にさらに笑い皺を作り、軽く頭を下げる。
長生きしろよー、と翔はゆっくり歩き出すお年寄りを見送った。
翔の日常はいつもこんな感じである。
先程のお年寄りに、先週も全く同じ道順を教えていた事も、翔は敢えて気にしない。
いつもこんな感じと言ったものの、実は翔の側にはいつも飯田斎というクラスメイトが居る。しかし今日は見ての通り、翔1人だった。
いつもと違う事が起こると、何かの前触れかと感じる事はないだろうか。
一抹の不安が、大いなる災いへ。
今まさに、翔の身に“それ”は降り懸かっていた。
翔がふと立ち止まる。
その視線の先には、3人の高校生と思しき男達の姿。雰囲気は不良といったもので、翔のそれより露骨だった。
自販機の前で屯する不良達。その景気良く煙草を吹かす様は、およそ高校生とは思えぬ吸いっぷりである。
翔は、高校生が煙草を吸うという行為が気になって足を止めた訳ではない。実際、翔の仲間にも煙草を吹かす奴は何人も居る。
翔が足を止めた理由、それは“ポイ捨て”だった。
いざこざを嫌う質である翔だったが、過去に煙草のポイ捨てにより自宅炎上という事態に見舞われたとあっては、黙っておけないのは仕方のない事か。
翔は、止まっていた歩を進め、ポイ捨てをした不良達に突っかかっていった。

「おーい、青少年達」

「あぁ? んだぁ?」

巻き舌上手だなぁなどと思いつつ、翔は、明らかに不機嫌な態度を見せる不良達の側まで歩み寄って行く。
対峙すると、翔は不良達より頭1つ分近く小さく、体格的には完全に見劣りしている。
手入れの行き届いたキューティクル眩しい黒のショートカット、幼さを含む柔らかさと端正な鋭さを併せ持つ整った顔立ち。
そんな翔の容姿を見て、怖じ気付く輩はまず居ないだろう。この不良達もその例に漏れず、薄ら笑いを浮かべて翔を値踏みしている。

「ボクぅ、何か御用ですかぁ?」

不良達は、覗き込むように翔を威圧する。誰の目にも明らかな、翔を見下した態度で。
翔は、そんな不良達を別段気に掛ける様子もなく、おどけたように肩を竦めた。
そして翔は、悪戯っぽく笑う。無邪気で、可憐で、小悪魔さながらの表情を浮かべながら、舌足らずの子供のように言い放った。


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