花ときみ-2
「わかった、名前、名前教えて」
混乱している頭で精一杯尋ねる。
「千枝理（チエリ）」
「千枝でも枝理でもないからねっ」
彼女はそうつけ加えた。
祐樹と花の精（自称？）の不思議な同居生活が始まった。
千枝理は、本当に植物らしく食物はとらず水しか飲まなかった。
日光浴が好きで寝るときベッドを千枝理が占領している。そして彼女の強い要望でベッドを窓のそばに移動させた。（その際、部屋の模様替えも行なう）
ある時、祐樹が千枝理を喜ばせようとミネラルウォーターを買ったがなぜかそのミネラルウォーターは好きではないらしい。
祐樹は午前中に大学へ行き、午後から花屋のバイトへ行くことが多い。
彼は千枝理が来てからどの花が千枝理か探すようになった。しかし、さっぱり分からなかった。
とりあえずケース内の切り花は違う気がしたし、
胡蝶蘭は千枝理にしては高級なイメージだし、
パンジーみたいに鮮やかでもない、サルビアでもない、パキラでもない、チューリップもなんかちがう。
店内のいろんな花を見たが祐樹にはまったく検討すらつかなかった。
しかし、千枝理は祐樹の行動を見ていたのか、いつもきちんとその日起こったことを答える。
今日花屋で起こった様々なことを話すのが二人の日課になった。
「今日来た人でたくさんトマトの苗注文してた人いたけどなんだったのかな？」
「小学校の先生でしょ、生徒が育てるんだと思うよ」
「あー、そっか。これからトマト農家でも始めるのかと思った」
「もしかしたらそっちかもな」
そんな会話を繰り返し笑う時間が、二人の中でゆっくり流れた。
「あ、今日俺、サークルの新歓で帰るの遅くなるから。」
「シンカン？」
「新入生歓迎会。一年生を迎える飲み会な。」
「へー、いってらっしゃい」
祐樹は新歓に向かった。
飲み会は花屋のすぐ横の居酒屋で行なわれた。
国道沿いの花屋と居酒屋は、満開の桜並木がつづく。酔って二次会に行く途中、桜並木を祐樹たちは通った。