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刃に心
【コメディ 恋愛小説】

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刃に心《第25話・愚者が夢見る桃源郷》-4

◇◆◇◆◇◆◇

「はぁ…」

口から息が零れる。
同時に頬がだらしなく弛緩しているのも自覚する。

「癒される…生き返る…」

暖かな湯にここ数週内分の疲れが溶け出していくようだった。

「年寄りみたいだぞ」

向かい側で武慶が言う。

「……仕方ないだろ。最近、ろくに週末は休めなかったんだから」

武慶は苦笑いを浮かべた。
湯船に浸かりながら目を閉じれば、聞こえてくるのは涼しげな虫の声と…

『うわぁ、かえちゃんの肌スベスベ!胸ふかふか♪』
『き、希早紀!?やめ…ひゃんッ!』

ほんのり赤面するような女子の声…
男湯と女湯を隔てるのは薄い竹垣の壁。
その為、声も結構筒抜けなのだ。

『あら、本当ですねぇ♪』
『ホントッスね!自分も悪くはないとは思ってたんッスけど、これには負けたッス』
『ちょっ、朧殿…ひゃあ!ま、眞燈瑠も…っあ!』
『……くっ!』
『………』
『ッ!な、何だよ黒鵺!べ、別に胸なんかなくても…』
『………』
『な、何だよ!お、お前だって変わらねぇだろ!』
『………』
『なっ…「……私のは未来があって、貴女のは未来ない…」だとー!』
『ひあぁ!や、やめて…ぁあ!』
………
……


「…何というか」
「…こっちが恥ずかしいな」

何となく居たたまれない気持ちになり、疾風は竹垣とは反対側に視線を外した。
反対側にはには大きな岩場が鎮座している。

「……ええか!……今から最重要機密作戦を開始する!」
「……イエッサー!」

その下で小声で円陣を組む七之丞達を見て、疾風は思わず水面に突っ伏した。

「……この作戦はメッチャ難易度が高い!せやけど、我々はやらねばならぬ!仲間の屍を乗り越える勇気は有るかッ?」
「…サー!イエッサー!」
「…良しッ!行くで!」
「ちょっと待て。何処に行くつもりだよ?」

湯から顔を上げて、疾風が七之丞と彼方、それと間宮兄弟に問い掛ける。

「しぃー!声デカいちゅうねん」

人差し指を顔の前に持ってくると、慌てたように七之丞は言った。

「……決まとるやないか。温泉、そしてこの竹垣の壁の向こうには女の子♪
となれば、男ならやることは一つや」

七之丞は手に持ったタオルの包みを開いた。
現れたのは小型のデジカメ。
ここまで来れば最早言わなくとも理解できた。

「もう勝手にしなよ…」

そう呆れたように呟くと疾風はまた身体を湯船に沈める。

「行くでェ!わいの調査やとあの岩場を登った先には女湯に繋がとる道があるはずや」

七之丞達は意気揚々と露天風呂の隅にある岩場を登っていった。


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