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ヒトナツ
【コメディ 恋愛小説】

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ヒトナツ@-3

ルンルン気分での帰宅途中、いつもの駅が見えてくる。
「ふん、昨日は足を捻ってすっ転んだが、今日は落ち着いているぜ」
なんて独り言を楽しみながら、改札前に到着した。

「ん」
乗車券を買う機械の前に、なんだか不思議な人が立っていた。
しかも、よく見ると女性らしい。
一番に目についたのが、背中の巨大なリュック。
女性自体はタンクトップにジーパンという格好で、髪はボブカット。なんともラフな外見である。
それになにより、とても背が高い。
いちおう175cmある俺だけど、女性はあまり変わらないか、少し低いくらいだ。
「外国の人か?」
女性は駅順が書いてある看板を睨んでいる。
行き先がわからないのか?

「……うし」
俺はこう見えて正義感があるらしく、困っている人を見過ごせない性格だったりする。
それでバカを見たことも多々あるが。
「あの、どうされました?」
控え目に声をかけると、女性はひどく驚いた様子で、素早く振り返った。
「……」
「……」
数秒、お互い目を合わせて沈黙する。
やがて女性が口を開いた。
「……行き先がわからないの」

驚いた。

女性は日本人だった。しかも、かなりの美人。
年はいくつか上だろうか。大人っぽい。

「…あ、えっと、駅名がわからないんですか?」
「それが、なにも覚えてないの」
なに言ってんだこの人。
「……え」
「昔住んでた場所にもう一度行ってみたかったんだけど、なんだかいろいろ昔と変わっちゃったみたいで」
たしかに、この辺りは合併やイメージアップなんかで頻繁に地名や駅名が変わっている。
「……そうなんですか、それは困りましたね」
「目印かなにかあればいいのだけど、きっとその行き先も変わってしまってそうだから」
「この辺りは田舎ですしね」
「そうね。せっかく十数年振りにアメリカから帰ってきたのに」
「アメリカ?それは遠いですね」
「ええ、残念だわ」
女性は困った感じでかぶりを振る。
言われてみれば、なんだかリアクションがアメリカっぽい。
気のせいだとは思うが。

「……力になれなくてすいません」
「そんなことないわ、ありがとう」
女性は微笑んだ。
「……では」
軽く頭を下げて改札を抜けた。
そのとき、ふと思った。
“アイツ”も今アメリカだっけか。

ホームに出ると、なんとなく後ろから視線を感じ、振り返る。
「……へ?」
「あ」
なぜか、さっきの女性がついてきていた。
「ど、どうされました?」
「……どうせ行き先がわからないなら、これもなにかの縁だし、あなたについていってみようかな、なんて」
「……は、はあ」
なんていうか、豪快で不思議なお姉さんだ。

こうしてなぜか、女性と帰路を共にすることになった。


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