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忘れてしまった君の詩
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忘れてしまった君の詩-16

 放課後。2−Dの教室。人気のなくなった頃を見計らって、迎えにきてくれた勇介と香織ちゃんに、僕は彼女のことを思い切って訊ねてみた。
「如月先生のこと?」
 僕は頷いた。
「そう。何でもいいんだ、先生のことで知ってることがあったら、教えてくれないかな?」
 二人は突然の質問に、困惑気味に顔を見合わせた。
 それはそうだよな。いきなり何の脈絡もなく、「如月先生のこと、教えて」なんて、誰だって変に思うよ。だけど、そう思われるのを承知の上で、僕は聞いたのだ。
 だって、僕にはもうこの手しか残されていない。
 本人に聞きたくても聞けない今、彼女のことを知っていて、尚且つ、信頼できる人に聞く以外に方法なんてないじゃないか!
 しばらくして、最初に口を開いたのは、やっぱり、勇介だった。
 それはここ三週間、彼の性格、人となりを傍で見てきたからこそ、予想できたことだ。
 彼は一見、おチャラけていて、軽薄そうなイメージを持っているが、その実、責任感が強く、誠実で、人が望まないことは決してしない真面目な男だ。
 そんな彼の言葉はただ一つ。僕はそう確信していた。もしかしたら、僕の中で眠っている勇介に関する記憶、思い出がそうさせたのかもしれない。
「何が知りたいんや?」
 僕の期待を裏切らない、勇介の言葉。
 僕はその時、始めてあった日、彼が言い放った台詞を思い出していた。
『誰が何と言おうと、ワイは龍麻の力になる決めたんや!それは例え、あの天と地が明日引っ繰り返ったとしても変わらんねん!絶対に絶対や!』
 あの時は、どうかしてるんじゃないかと思ったものだけど、僕はこの三週間で嫌というほどわからされた。彼は本気だった。本気であの言葉を、行動として忠実に守ろうとしている。
 本当スゴイ男だと、僕は思った。
 そんな勇介を香織ちゃんは不服そうに睨んだが、何も口にはしなかった。
 とりあえず、成り行きを見守ろうとしている様子。 そう判断してから、僕は切り出した。
「さっきも言ったけど、彼女のことなら何でもいいんだ。勇介の知っていること、全部を教えてくれ」
「難儀なことやな」
「頼むよ」
 ここで断られれば、チェックメイト。
 彼女のことを知る機会は、もしかしたら、永久に訪れないかもしれない。
 僕の心情を察してくれたのか、彼は苦笑を浮かべると、小さな声で言った。
「わかった。わかったから、そない辛そうな顔すんなや」


 西日差し込む、午後の教室。勇介の話し声が響く。
「前にも話した思うけど、如月先生は音楽の担当や。去年の四月に、新任教師としてうちに来た。なんでも、母校がここやったそうで、それが縁らしい」
「それは本人から聞いたのか?」
 ふと気になり、僕は聞いてみた。
 僕の記憶喪失を人づてに聞き、『噂は好かない』という理由から直接確かめにきた彼だ。
 信用に足る情報だろうが、確かめるに越したことはない。
 僕の意図を察したのか、勇介はニヤリと笑った。
「龍麻もわかっとるやんか。ええ心構えや。ただ、この情報はほぼ間違いない筈やで?なんせ、当時の同級生やった英里先生から仕入れたモンやからな」
 なんと!英里先生もここの卒業生だったのか。
 驚愕の事実に、僕は度胆を貫かれた。
 だが、よくよく考えてみれば、わからないこともない。あの夜、彼女の気持ちを知った時、二人が昔からの知り合いのように話していたのを、僕は聞いているではないか。
「悪い、続けてくれ」
「ほいな。ええと、どこまで話したっけか……そうそう。そんなもんで当時はえらい盛り上がったんや。なにせ、二人ともあの見栄えやんか?『美人教師が二人も来た』いうんで、生徒のみならず男性教諭までウカれとったわ」
 確かにそうだろうな、と僕は思った。
 如月先生は言うに及ばず、英里先生も系統は違うが負けず劣らず美人だ。
 褐色の短めの髪。やや吊り上がった目には知性が煌めき、口元には自信が滲み出ている。
 細く、彫りの深い、整った顔は、どこか日本人離れしているようにも見えなくはない。
 二人を例えるなら、如月先生は和風、お姫様。
 英里先生は、ヨーロッパ辺りの女王様といったところかな。
 学生時代はさぞかしモテたことだろう。そんな僕の考えを読んでいたのか、勇介は苦い笑みを浮かべ、いった。
「まあ、それも最初だけやったんけどな」
「と、言うと?」
 思わず聞き返す、僕、
「二人ともああいう性格だから」
 答えたのは、それまで僕達のやり取りを傍観していた、香織ちゃんだった。
 どうやら、彼女も話に参加することに決めたようだ。
「そういうこっちゃ」
 頷き、同意を表すと、勇介は香織ちゃんに続きを譲った。


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