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忘れてしまった君の詩
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忘れてしまった君の詩-15

第2話
「名もなき詩」


 僕が学校に通うようになって、三週間。世間はゴールデンウィークを経て、梅雨入りを、目前に控えていた。
 さて、僕はと言えば、ようやく学校生活にも慣れ始め、一つ年下のクラスメートとも大分、打ち解けることが出来つつあった。
 いつだったか、ノートを見せてあげたことが幸いしたのか、彼らは大変僕に良くしてくれる。人生、何がどう転ぶかわからないもんだね。
 あれ以来、勇介ともうまくやっている。ゴールデンウィーク、何かしよう、どこかに出かけようと考えてはいても、今一つ踏ん切りがつかずに家事ばかりに明け暮れていた僕を、外に引っ張りだしてくれたのも彼だった。
 とはいえ、さすがに、二人乗りでウィリーされた日には、心の広い僕も本気で友達をやめようと思ったものだったけど……。
 家族との関係も良好だった。最初のような、お互いギクシャクした感じは殆どなくなり、おばあちゃんは疎か、父さんとさえもテレビや学校、その他くだらない話題でも会話を楽しめるようになった。
 これもひとえに、何気なく僕のことをフォローしてくれた香織ちゃんのおかげに他ならない。
 それを考えれば、彼女に足を向けて寝ることなんて、恐れ多くて出来やしない。
 そんな僕だったが一つだけ、未だにうまくいっていないことがあった。
 そう、あの人……。

「あっ」
 休み時間。教科棟へと続く渡り廊下。
 次の時間の化学が実験のため、化学室に向かっていた僕は、不意に足を止めることになった。
 前方にあの人――如月若菜の姿を見つけたからだ。 今日も彼女は、まるで軍服のようなスマートな服を着ている。
 肩を越える髪もシンプルに結い上げ、前のように眼鏡もかけていた。
 これであと制帽さえ被れば、知的な美人女将校の出来上がりといった感じだ。
 彼女は教材のプリントの束を、重そうに抱えながら、僕らの方へ向かってきていたのだった。
「どうしたんですか?」
 一緒になって化学室に向かっていた石原(数学の時間、ノートを見してあげた彼だ)が、集団から外れた僕を振り返り、言った。
「頭でも痛いんすか?」
 何を勘違いしたか、心配そうに聞いてくる。
「いや……」
 そんなことない、と思わず否定しようとする、正直な僕。だが、そうこうしている内に、僕と彼女との距離はどんどん縮まっていた。
 チャンスだと、思った。「いや、やっぱり少し痛いかな」
 あと、10メートル。僕は心の中で、タイミングを測り始めた。
「大丈夫っすか?無理しない方がいいですよ」
 あと、8メートル。彼女が僕達に気付いた。
「そうだね……」
 5メートル……今だ!
「悪いんだけど、先に……」 
 だがしかし、
「ちょうどよかった、石原君」
 僕の言葉を打ち消すように、彼女の声が廊下に響いた。
 石原は一瞬、肩をビクつかせると、彼女を振り替えった。
「何でしょうか?如月先生」
 気のせいか、口調が固くなっている。
「悪いのだけど、この資料を職員室まで運ぶのを手伝ってくれないかしら?」
「重そうっすね」
「そうなの。いいかしら?」
 石原は束の間、考える素振りを見せた後、頷いた。「いいですよ」
「ありがとう」
 彼女は石原に謝辞を述べてから、束の半分を彼に手渡した。
「それじゃあ、行きましょうか」
 そういう間にも、彼女は彼を残して歩きだしている。
「あっ、はい!そういうわけなんで、竜堂さん、すみません」
「いや、気にしないでいいよ。僕は大丈夫だから」
「ホント、無理だけはしないで下さいね。それじゃ」
 石原はそう言い残して、先を歩く彼女を追い掛けていった。
 この間、彼女が僕と視線を合わせることは一度もなかった。
 僕の中で、何かが悲鳴を上げた気がした。

 如月先生とは相変わらずだった。それだけが未だに、何の変化も見せてはくれていない。
 この三週間、何度も廊下ですれ違ったり、階段でばったり出くわしたりもしたのに、彼女はその度に足早に通り過ぎたり、歩く方向を変えて去ってしまう。
 何らかの理由で、僕のことを避けていけない時には、今みたいに機転を利かせて僕との接触を拒む。
 それが余りにも上手に、違和感なくこなすものだから、当の本人以外、避けられていると気付くことができないでいた。
 彼女のことを知りたいと思う僕の心とは裏腹に、僕は彼女に話し掛けるきっかけすら見出だせないでいる。
 僕は完全に、彼女に避けられていたのだった。


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