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忘れてしまった君の詩
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忘れてしまった君の詩-11

もはや、ぐうの音も如月先生からは出てこなかった。こうなってしまえば、先に嘘をついた方の負けだ。『どうして奴を避ける?』話が変わった。
『今日一日、お前達を見ていたが、お前は奴を避けてばかりいたな』
『別に、避けてなんて…いないわよ?』
平静を装っているが、そう言った彼女の声は、壁一枚隔てた僕にも分かるほど震えていた。
それを見逃すほど、英里先生は甘くない。
『誤魔化すな!』
『くっ…!?』
小さいけれど、確かな鋭さを持った叱責の声が飛ぶ。
『答えろ、若菜!何故、竜堂を避ける?あいつが記憶を無くしているからか?お前のことを忘れているからか?そんな理由で奴から逃げるほど、お前の気持ちは安っぽいものだったのか!?』
『違うっ!違うわよ!!』彼女の悲痛な叫びを聞いて、今更ながらに僕は、自分の状況の不味さに思い当たった。
女性教諭二人の激しい言い争いを、こそこそと立ち聞きする男子生徒。
中の二人にバレなくても、こんなところを誰かに見つかれば、申し開きの仕様もない。
僕は急いでその場を離れようとした。
『恐いのよ!』
だが、その声に僕の足は動きを止めた。
『あの同じ顔で、あの同じ声で、また「あなたは誰ですか?」って言われるのかと思うと、堪らなく恐いの…、恐いのよ…』
やっぱり、と僕は思った。僕のあの言葉が、彼女の心を深く傷つけてしまったのだ。
それを思うと、今すぐにあの部屋に飛び込んで土下座でも何でもして、彼女に謝りたかった。
だが、まだダメだ。
それをするには、僕は余りにも彼女を、そして、『僕』のことを知らな過ぎる。そんなことじゃ、彼女の心を更に深く傷つけてしまうだけだ。
『お前はあいつのことが好きか?』
そう言った、英里先生の声は、普段の固い口調からは考えられないほど、軟らかく慈しみに満ちたものだった。
それに涙混じりに答えた、彼女の言葉が、いつまでも僕の胸に響いた。

『好き…、りゅうのことしか考えられないくらいに、あたしはりゅうが好きなの―』


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