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『異邦人』
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『異邦人』-6


朝、光より先に目を覚ましたルーンは軽く体を震わすと光の耳元で何か囁いた。
すると毛布の中から、にょきっと腕が伸びて目的の場所を指す。彼女は頷いて立ち上がると歩いていった。つかの間、まどろんでいた光は突然ガバッ!と体を起こす。
「今、何て言った!?」
彼女が発した一言は、どんな目覚ましより強烈に眠気を吹き飛ばした。

《ねぇ、光。トイレってどこ?》

呆然としたまま光が固まっていると、眠そうに瞼を擦りながら彼女が戻ってきた。そして光を見ながら、また一言……
「おはよう光。どうしたの?」
光の頭はパニックを起こしていた。
(な、何で急に言葉がわかるんだ?じ、じゃあ……こっちの言う事も?)
光は恐る恐る口を開く。
「お……おはようルーン。よく眠れたかい?」
光の一言も、やはり強烈に効いたらしい。ルーンの目が大きく見開いた。しばらく見つめ合った後、二人は同時に叫ぶ。

「どうして!?」

「ルーン。俺の言葉がわかるのか?」
「うん、わかるよ光。でも、どうして?」
「俺にもわからないよ。わからないけど……」

……ぐぅぅ……

光の腹が鳴った。

……ぐぅ……

調子を合わす様にルーンのお腹も鳴る。互いに顔を見つめ、そしてどちらともなく笑い出した。
「あ、あのさ……とりあえず、朝飯にしようか?」
「う…うん…」

何が何だかわからないまま、二人は朝食を取る。トースト、サラダ、スクランブルエッグ、そしてオレンジジュース………普段、こんなに凝った朝食を光が作る事は無い。やはり、ゲストを迎えての朝なので、それなりに頑張ったと言うところであろう。話しかけるきっかけを掴めずに黙々と光がトーストをかじっていると、ルーンが先に口を開いた。
「あ、あの……光、さん。昨日は……その、ありがとう……」
「光でいいよ。それよりルーン、君はどうしてあんなところにいたんだい?」
光の問いかけに、ふぅっと軽く息をついて、彼女は話し始めた。

「あたしにも、よくわからないの……」

彼女の口をついて出た最初の言葉はそれであった。
「わからないって?」
光は聞き返す……もっともな疑問である。
「まさか記憶喪失とか、そういう……」
「違うの!」
光の言葉を遮る様に、ルーンは叫んだ。
「あ、ごめんなさい。違うの……ちゃんと、覚えてるわ……。ただ、どうしてこんな事になっちゃったのかわからないの……」
ぐっと唇を噛み締めて、彼女は俯いてしまう。光は微笑むと、ルーンのおでこを軽くつついた。
「そっか……じゃあ、覚えてる事でいいから話してみてくれる?いいかな?」
彼女は小さく頷くと、昨日の出来事を話し始める。何度も頷きながら、ルーンが話し終えるまで光は黙って聞いていた。

「……っていうコトなの。その後、光と出会って……って言っても、信じられないわよね?言ってるあたしだって、信じられないもの……」
光の表情を伺う様に、彼女は見つめる。“カチッ”と音がして火が灯り、白い煙が部屋に拡がっていく。咥えていた煙草を灰皿に置くと、光はゆっくりと喋った。

「確かに、信じられないな……」


……《落胆》……

ルーンの仕草は、まさしくその通りだった。小さな肩を落として力なく、うなだれる。
「でも、君の目は嘘を言ってない……それは信じられる気がするんだ。」

バッ!と顔を上げ、ルーンは驚きをたたえた瞳で彼を見た。なおも光は言葉を続ける。
「だってそうだろ?あの時、確かに俺には聞こえたんだ君の声が……。理屈なんてわからないけど、こうして今、俺達は話してる…不思議な事だらけだよ。」
「信じて…くれるの?」
「君の話を……じゃなくて、君を信じてるんだよ……ルーン。あはは、少し気障(きざ)過ぎる言い方かな?」
鼻の頭を掻きながら照れ臭そうに光は笑った。
「嬉しい……ありがと光……嬉…しい……」
ルーンの瞳から、ぽろぽろと涙が零れる。しかしそれは、一人ぼっちで膝を抱えたまま、途方に暮れて流した涙と違い、暖かくて優しかった。


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