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『異邦人』
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『異邦人』-11

「光、暖かい……」
胸の中でルーンが呟く……
「ごめんな。」
光には、ただそれしか言えなかった。
「いいの、こうしてくれてるだけで元気になれそうだから……。あたしは、ならないよ、光の重荷になんてならないから……」
ルーンの口から零(こぼ)れ出た意外な言葉に光は目を見開いた。
「どういう意味だ?」
微かに、ほんの微かに光の声は上擦る。
「ごめんなさい……夢の話なの…でも……」
ルーンの台詞に息を飲む光……。さらに彼女の言葉は続く。
「とても悲しい夢……。よくわからないけど病室に光がいて……。夢の話なのに、あまりにもリアルだったから……。なんでもないの、忘れて……」

ほんの戯言(たわごと)、少なくてもルーンにとっては、そうであった。しかし、光の反応は違った。
「頼む、ルーン。その夢の話、詳しく聞かせてくれないか?」
はっきりと見てとれる程、光は動揺している。そんな光をルーンは不思議そうな顔で見ていた。
「い、いいけど夢の話だよ?それに、話すのは辛いな……だって初めて夢見て泣いちゃったんだもん。」

何も言わず、ルーンの言葉の先を待つ様に光は見つめる。その勢いに圧され、戸惑いながらもルーンは口を開いた。
「あのね、ベッドに女の人が寝ていて、すぐ側に光がいたの。気のせいかもしれないけど、写真の人によく似てた。それで、その人が光に……」
ルーンは自分が見た夢の内容を、事細かに光に話す。終始、俯いたまま光は耳を傾けていた。時折、話の節目に小さく頷くけれど俯いたままなので、その表情は伺えない。

「……あたしには言えないなって思った。重荷になりたくないから忘れて欲しいだなんて……。とても悲しくて、目が覚めたら泣いてたの。これがあたしの見た夢……」
ルーンが話終えても光は微動だにしなかった。
「ルーン…その夢の中で俺はそいつの事をなんて呼んでた?覚えてる?」
同じ姿勢のまま、物静かな光の口調。それは何かを堪(こら)えている様にもルーンには感じられた。
「確か……美幸って呼んでたと思う……。凄く強くて、優しい女性(ひと)……最後まで光の事を……」

バンッ!!!

激しくテーブルを叩き、光は立ち上がる。
「違う!!あいつの鼻筋には皺(しわ)が寄ってた!嘘を付く時のあいつの癖なんだ!本当は怖かった筈なんだ!強くなんてないんだよ。それなのに……」

それはまるで、感情の爆発。初めて見せる光の激しい言葉にルーンは怯え、すくみあがった。
「……光?あ、あのね……あたしが話してるのは夢の……」
動揺したルーンの言葉にも答えず、一気に喋ったせいか光は力無く座り込み、呟いた。

「夢じゃない……全部、本当の事さ……」

(全部、本当の事……)

ルーンがその言葉の意味を理解するのに数秒の時間を要した。
「う、嘘でしょ?」
言葉を理解したルーンの第一声は、それだった。
「嘘じゃない。俺は美幸の名前をルーンに言った事なんてないだろ?」

ない……確かに聞いた事などなかった。じゃあ自分の見たものは一体?知る筈のない事実をなぜ?ルーンの巡る思考が導き出した答え、それは………

「あたし、光の心の中を………見たの?」

光は答えなかった。しかし、その瞳に微かに恐怖の色が浮かんでいるのをルーンは見逃さなかった。
「怖い?あたしのことが……。そうよね……」
淋しげな笑みを浮かべてルーンは呟いた。
「なんで……なんで、あんな事を言ったんだよ?重荷になりたくないなんて……」
平静を装うつもりでも、いつのまにか光の語気は強くなる。
「なんでだろ?すごく切なくて、光に何か言ってあげたかったの。でも……でもね、信じて欲しい。初めてなのよ?あんな風になったのは……。夢だと思ってたから……でも……」
ルーン自身も戸惑っている。当然、彼女に悪意などある筈もない、ただ素直に話しただけなのだ。自分が見た不思議な夢の事を……。光は軽く息をついて彼女を見る。
「いいんだ、ルーンのせいじゃないのはわかってる。別に見られたからって困るもんでもないしな……。しかし、さぞかし情けなかっただろうな……」
「え?」
「みっともなく泣いちまってさ……はははっ」

乾いた笑い声、そこには感情など欠片も篭っていなかった。

パチンッ!

小気味良い音が室内に響く……それは白い小さな手が光の頬を打った音だった。頬を押さえ、驚いた顔で光が視線を戻すと、そこには腕を振りきった格好のまま、目に涙を浮かべて怒りに震えるルーンの姿があった。
「本気で言ってるの?光……」
「………」
「みっともないのは、泣いた事を取り繕(つくろ)うことよ!誰だって大切な人を失ったら悲しむわ。それは情けない事なんかじゃない!」
初めてルーンの怒った顔を見た。痛みよりも何よりも、光はその事に驚いていた。


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