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毎日考〜始まりの前〜
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毎日考〜始まりの前〜-1

プロローグ。

カチャ。
キィ、パタン。
「ただいま。」
部屋の奥にそっと声をかける。
返事はなかった。
彼女は寝ているようだった。
軽い、柔らかな毛布を被せる。
彼女がもぞもぞ、と動いた気がした。
幸せそうに眠っている。
いつも通り、バスタブに湯を張る。
42℃。
彼女は熱すぎる、と言う。
けれどこれだけは譲れない。

テーブルの上のお茶を口に含む。
上品な香りが鼻をくすぐった。
ベルガモットのクセのある、けれどホッとする香り。
彼女から取り上げたはずの紅茶だった。
ウェッジウッドのアールグレイ。
やっぱり彼女は彼女で。
何だか笑ってしまった。
真っ白な胡蝶蘭がこちらを見て微笑んでいた。
ティーポットに残っていた紅茶を、蘭の根元に注ぐ。
蘭の花が微かにうなずいたように見えた。
彼女の髪に触れると、さらさらっとこぼれおちた毛先が指先にこそばゆかった。
ふと思い立って、風呂の湯を確かめる。
ちょうど、いつもとほぼ同じラインまで溜まった所だ。
彼女を構っていた分ほんの少し多かった気もしたが。

ゆっくりと湯船に浸かる。
1日の疲れが抜けていく。
この部屋は、彼女の周りは、暖かな空気に満ちている。
結婚。
不思議な響きだ。
彼女には似合わない。
けれど縛ってしまいたい。
書類で。
紙切れで。
リビングでテレビを付ける音がした。


飲みかけだったはずの紅茶がなくなっていた。
ティーポットとマグも片づけられていた。
お風呂からお湯の音がしてくる。
彼がかけてくれた毛布を引きずったまま、ソファにもたれて床に座る。
ペタリとしたフローリングが暖まった身体に優しい。
湿った空気が流れてくる。
お風呂の扉が開いた。
暖かくぬるびた空気。
きっと、あたしにはぴったりだ。
「起きたの。」
高くも、低くもない優しい声。
穏やかで、安心する。
きっと。
渇いた身に、冷たい水が沁みていくように。
あたしの心に染み入る。

「ん。起きたの。」
甘えたような、か細い声。
いつもより少しだけ低くて。
少しだけ不機嫌そうで。
幼い子どものように、不安げな声色に感じた。

「湯、冷めたよ。」
バスタオルを腰に巻いた彼が、脱衣場から出てきた。
綺麗な体つきをしてる。
緩やかに微笑んだ彼と視線が絡まる。
大好き。

「入る。」
彼女の白い頬が、うっすら紅く染まって。
呟いた言葉が甘く響いた。

「ごゆっくり。」
そっとあたしの髪に触れた手が、いつもより少しだけ温かくて。
そして少しだけ湿っていた。


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