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和州道中記
【その他 官能小説】

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和州記 -紅梅ノ女--4

「おいこら、一紺!」
行為の最中かもしれないと言うのに、勢い良く襖を開けた蘇芳は、遊女達が咎める声を無視してずかずかと部屋の中に入って来る。
そして、布団の中の一紺を寝台から引き摺り下ろすと、その耳を思い切り引っ張った。
「あ痛てててて!」
「このガキ、紅梅に手ぇ出しよって!!」
額に青筋を浮かべ、物凄い形相で一紺に噛み付く蘇芳。
紅梅は思わず目を瞬かせた。
「甘いな、蘇芳。『紅梅とヤろうなんて考えるな』言われて、俺があんたの言い付けに素直に従うとでも思たんか?」
「このクソガキが〜ッ!!」
大人気なく、蘇芳は一紺の脳天に拳を振り下ろした。
「〜〜〜ッ」
声もなくその場にうずくまる一紺を放って、決まり悪そうに蘇芳は言った。
「…こいつがお前と出来るわけない思うとったんやけど、一応念の為に釘を刺しといたんや」
それから、未だうずくまっている一紺を睨み付ける。
「…せやのに、このガキ…!」
「ね、ねえ蘇芳。それって…」
紅梅が蘇芳の着物の袖を軽く引っ張った。
「…妬いてくれたって、ことかい?」
真っ赤になった紅梅の言葉に、蘇芳の顔も赤くなる。
それを見て後頭部を押えながら、一紺は立ち上がって呟くのだった。
「…全く、やっとれんわ…」


それから数日後のことであった。
とある茶屋で、一紺と紅梅が向かい合って座っていた。
一紺は団子を頬張りながら言う。
「…俺が紅梅の姉さんを指名したんは、蘇芳に釘刺されたからなんやで」
茶を啜る紅梅に、一紺は三皿目の団子に手をつけながら続けた。
「あいつの言い方でぴんと来てな。姉さんに惚れてんな、てな。今思えば家でも良う話しとったんや、姉さんのこと」
紅梅の顔が微かに紅潮する。
「せやから、姉さんと寝てやったら何て顔するかな思て」
「凄い顔してたじゃないさ」
笑う彼女に、一紺は溜息一つついて言った。
「そこまでは成功したんやけど…まさか互いに好いてたとはなぁ。蘇芳を困らせよう思っとったのに」
蘇芳に嫉妬したと言っていた一紺。そんな彼は、単に蘇芳の困った顔が見たかったのであろう。
少年の悪戯…にしてはやることがやることだが、一紺の計画では紅梅と寝て蘇芳を困らせて終わり、であった。
紅梅もまた蘇芳を好いていて、二人が出来てしまったのは計算外だったようである。
「本当言うとな、姉さんに『蘇芳のこと好きやろ』ってのもカマかけただけなんやで」
がたり、と音を立てて紅梅が立ち上がった。
「なッ?!」
「だって、焦らし方が蘇芳に似てるなんて言葉だけで、好きかどうかなんて予想出来へんやろ?普通」
三皿目の団子も平らげると、一紺は無邪気に笑った。
紅梅はしてやられた、と言った顔で一紺に言った。
「このクソガキ〜…!」
経験豊富な遊女であるこの女も、純粋な『恋』というものには弱いらしい。
一紺は茶を啜る。
紅梅は、息をついて言った。
「あんた、間違いなく大物になるよ…色んな意味で」
「悪い意味で考えてるんと違う?」
一紺の言葉に肩を竦めると、紅梅はにやりと笑みを浮かべて言ったのだった。

「あっちの方は間違いなく、ね」


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