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例えばそれが、夢である必要
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例えばそれが、夢である必要-2

「タケダ、お前このままで良いのかよ。三年間の内、三回しか訪れない文化祭の一回目だぜ?」
と、高橋は言った。 貴重な時間なのはわかったが、何故それが僕が絵を描くという事に繋がるかは全くわからなかった。が、こうなった高橋を止められる物はこの世にはなかった。
「しかたない」と僕は言った。
「やりぃ」と高橋が言った。
「じゃあなにの絵が良い?」と僕は高橋に尋ねた。
高橋は少し悩んだ顔をして、ゆっくりと一人の女性を指した。
「じゃあ今見えたあの女子生徒」と高橋言った。
僕は高橋が指した方を向いて、また高橋を見た。 高橋も指した方を向いて僕を見た。 高橋は悪戯っ子の顔で笑いながら、また携帯電話を触り始めた。

指された方向には、学校で一番綺麗な女性と名高い、青山 京子がいた。




「嫌だ」と僕は言った。
高橋は怪訝そうな顔をして、僕は鼻にかけた様に笑う眼を見た。

彼が指した青山 京子と言う女性は、僕と高橋の二個上の歳で高校三年生であり、学校一美しいと名高い女子生徒であった。 もちろん僕も知っていたし、高橋もその事を知っていたはずであった。 なにしろ、僕らの学年でさえ彼女のファンはたくさんいたし、彼女と話をするだけでも羨望の声があがる程の有名人であったから。
しかしながら僕は、あの青山 京子という女性が好きにはなれなかった。正確には好きに“ならなかった”のだ。それは僕が、高校生になったという事でも理由付けられるし、また他の理由でも説明ができた。
要するに怖かったのだ。
ただ単にあの女性を愛するという事が怖かった。 彼女は綺麗すぎて、完璧すぎた。 僕にはそれが違和感に感じられたし、それを知りすぎると、僕が僕でなくなるような錯覚を受けた。
ひどく抽象的な事であったが、これは間違いなく真実であった。

「なんでだよ」と高橋は言った。
僕は高橋が本気でそう聞いているのかがわかりかねていた。
「僕は彼女が嫌いなんだ。知っているだろ」と僕は言った。「描きたくないんだ。彼女だけは」
「だからなんでだよ。嫌いでも描きたくないのとは関係がないだろ」と高橋はそう言った。
確かに関係は無かったのだか、しかしそう思うのは本当であった。 僕は彼女を描きたくないと思ったし、なにより彼女を描いている自分が嫌であった。想像するだけでも嫌気がさした。
高橋は僕の様子を舐める様に見た後に、また携帯電話を触った。 そして気持ちの良い程澄んだ声で言った。
「タケダ、何故だ?なんでそんなにも青山先輩の事を毛嫌いする?」
いつもならそこまで追求しない高橋も今日は何故か真剣だった。 僕はそんな高橋にしり込みをしてしまう。
「自分でも上手く解らないんだ」と僕は言った。
青山 京子とは話をした事も無かったし、もしかしたら目を合わせた事もないかもしれ無かった。 そんな人を嫌いになる理由なんて物は、普通の人からすれば不思議な事だし、奇妙な事であった。僕もそれは理解していた。
「わかったよ。タケダがそう言うなら、そうなんだろうな」と高橋は言った。
その眼は少し冷たく、また少し哀しげであった。

しかたなく、僕は絵を描き始めた。
高橋がそこまで青山 京子の絵にこだわる理由はわからなかったが、それで僕は高橋の哀しむ顔を見たくはなかった。僕にとって高橋は、本当の意味での唯一の友人であったから。
「悪いな。今度飯おごるから」と描き始めた僕を見て高橋は言った。
「うんと高いの」と僕は言って笑った。
「財布に余裕があれば」と高橋も言って笑った。

僕は続きを描いた。


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