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ツバメ
【大人 恋愛小説】

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ツバメI-2

途端にこの空間は静かになる。
「……ああーっ!!」
とりあえず叫んでみる。

俺はマジでなにやってるんだろう。
なに燕に言っちゃってんの?
別れさせたのは俺みたいなもんだぜ!?
しかもあんだけ無茶して椿芽ちゃんに告ったくせに、返事も聞かずにそれだけで満足してる自分がいる。
やべえよ本当、なにやってんの、俺?

どうせ、連絡もしない俺なんかじゃ、もう椿芽ちゃんを振り向かせることなんてできないよな。

自分にムカついて、壁を殴る。
「……っいでぇー!!」





目の前には、分厚いテキスト。
講師の説明など聞く耳を持たずにペンをくるくると回す。
「……」
国家試験が近いというのに、俺の頭はひとつのことでいっぱいだった。

椿芽。

今なにしてる?
笑えてる?
俺のこと、忘れた?

なあ椿芽。
あのときの俺は、確かにお前のことほっといたり、お前が嫉妬しないのをいいことに、“趣味”なんてカコつけて合コンに通ったり、女と遊んだりしてきたよ。
でも、あの日でもうやめた。
でもね、弁明すると、もうやめるつもりだったんだよ?

最後に合コンした日、まだお前と付き合ってるうちから、アドレス帳の“合コングループ”はもう無かったんだ。

ちゃんとすぐに言えばよかった。
俺は気付いてほしくて、また格好つけて。


今からじゃ、もう間に合わないなんてわかってる。
自分が撒いた種だし。
なにより。
昨日見たんだよね。
椿芽が男と歩いてるとこ。

そろそろあきらめますか。


「鳥羽!なにやってる!答えんか!!」
「……へ?あ?まだ好きです!」
「な、なにを言っとる!!」
「あ……」

「………燕」





『久し振りだね』
「うん」
『マスターもお久し振りです』
マスターは無言でニッと口元を吊り上げる。
「マスター、いつもの」
『あたしも!』

もう何度このバーに足を運んだだろうか。
数回、一人で来ることもあった。
千川くんと出会い、ここをおしえてもらって、この小さな空間が本当に好きになった。
千川くんとは現在、一番親しい友人のような関係になっている。
彼は相変わらず可愛らしくて、強い。


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