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「ドライブ・ドライブ」
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「ドライブ・ドライブ」-5

瞬きをする度に、空はその色を変えていく。
「…ねえ、あたしってかわいい?」
花が突然僕に尋ねた。
「うん」
頭を撫で、僕は答える。
「本当に?」
「本当に」
「世界中の誰よりも?」
僕は少し考える。
「…それはどうかな」
暫くの間の後で、僕は無様に砂浜に引っくり返った。花が思いきり僕の事を押したからだ。
「…帰るわよ」
花は既に立ち上がっていた。ツンと僕を見下ろし、夕闇を背に。
「何時までそうしてるつもりよ」
少し赤くなった目を隠すように、花はスタスタと歩いて行った。その姿を見送り、僕は起き上がって体に付いた砂を払った。
シャツが濡れている。二番目に気に入っているシャツ。でも、今度は駄目にならないだろう。だってこれは花の涙なのだから。
車に乗り込み、暫くエンジンを暖める。相変わらず花は窓を開け放ち、じっと海を眺めていた。日は沈み、空は藍色だ。そして海の色も。
その姿を僕は煙草を吸いながら見つめる。
「また連れてきてあげるよ」煙草を揉み消し、ハンドルを握りながら僕は話し掛けた。
「うん」
アクセルを踏み込み砂浜を走り出す頃、花が口を開いた。
「お腹空いた」
「何か食べに行こう。何がいい?」
「あなたが決めてよ」
少し考えて僕は言う。
「お好み焼き」
「…髪に匂いがつくじゃない。でもいいわ」
ナビで呼び出し、本線に車を戻す頃には、渋滞が目立ち始めた。でも、構わない。まだ今日はある。
相変わらずの僕等の距離。少し前の花の温もりや、匂いは今は無い。でも、少しの自惚れが僕を包んでいる。本当にほんの少しだけど。
「…ねえ」
動かない車の波を前に、ハンドルに腕を伸ばして僕は言う。振り向く花の顔を、目の端に捉えながら。
「…僕達に、今度ってあると思う?」
きょとんとした花の顔。大きな瞳を丸くさせて、僕を見つめるその眼に見惚れた。きっと僕は、耳まで赤いだろう。
「知らないわ、そんなこと」
花の声。微笑んだその顔に、僕は笑みを返した。
ドライブは、続く。
〈了〉


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