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刃に心
【コメディ 恋愛小説】

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刃に心《第23話・勝利を手にした敗北者》-12

「はや…て…勝った…のか…?」

疾風は無言で頷いた。
それを見て楓は満足そうな顔をした。

「どうやら…私も……効きが遅い体質の…ようだ…」
「楓、しっかりしろ!俺を独りにしないでくれよ!!」
「…すまぬ」

楓は小さな声で謝った。

「…もう目が霞んできて…あまり良く見えぬのだ…」
「楓…」
「そのような…声を出すな……勝ったの…だから良いではないか…」

そう言って右手を疾風の頬に持ってくると、一度だけ撫でた。

「…私は満足だ。
こうして…最後までお前の側にいられたのだから……」

楓は笑顔のまま、ゆっくりと瞼を降ろした。

「…すまぬ…少しだけ…眠らせて…もら…」

頬から右手が滑り落ちた。

「楓ぇええ!」

何かがひらりひらりと落ちてきた。
それは月光に照らされながら、楓の胸元に降り立った。
霞の握っていた白い封筒だった。

『おめでとうございます』

疾風の背後でスピーカーが唸った。

『その旅行券は貴方の物です。お疲れ様でした』
「…ちょっと待てよ」

振り返らず、疾風は吐き捨てるように言った。

「…お前ら、これで全部終わりにするつもりか」
『………』
「聞こえてるんだろ」

月は既に中天を越え、西へと沈み始めていた。

「俺に…」

風が流れ、銀色の弾丸が疾風の足元に転がってきた。

「俺一人に此処の片付けをやらせるつもりかぁああ!!」

疾風の悲痛な慟哭は黒い空に吸い込まれていった。

◇◆◇◆◇◆◇

「おはよう」
「おはよ〜」

爽やかな朝が来た。辺りには挨拶が飛び交っている。
だが…

「あ〜…もう死ぬ…」

ずるずると廊下を進む疾風だけはどんよりとした淀んだオーラを纏っていた。

「大丈夫か?」

傍らの楓が心配そうに問いかける。

「大丈夫じゃないよ……一睡もしてないんだから…」

その言葉を裏付けるように疾風の目の下には青黒い隈が引かれていた。

「…身元の判らない参加者を帰す為に…駅と学校を何度も往復したり…壊れてた所を応急処置的に治したり…」

ふっと疾風は笑った。
壊れた笑顔だった。


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