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H.S.D
【学園物 恋愛小説】

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H.S.D*last*-3

「ちょうだい」
「樋口ぃ、そえ取ってあえてぇ〜」
呂律の回らなくなってきた好美がビールを指差す。
「じゃあ天宮はそこに座れ!」
樋口があたしの後ろを指差した。
そこは空っぽの押入。
あたしは言われるがままにそこに座った。
樋口がぐっと腕を伸ばしビールを持ち上げた。それを好美に手渡し、好美があたしに回してくれる。
「ありがと」
あたしがそれに手を伸ばすとスッとビールが後ろに下がった。


―はい?


ビールの向こうに好美の恐ろしい笑顔が見えた。
「あんたにはシラフでいてもらわなきゃ困んのよ」
言葉の意味を理解する前に、あたしは肩に衝撃を受け、押入の中に吹っ飛び壁に思いっきり後頭部をぶつけた。
あっと思った時にはもう遅い。あたしが目を開けるとちょうど押入の襖がバンッと閉まるところだった。
「ち、ちょっと!?何すんの!」
襖を押しても引いても叩いても開かない。スライドなんてありえない。完全に閉じ込められてしまった。
襖に耳を当ててみるとすぐ近くで二人分のイビキが聞こえた。
たぶん好美と樋口だ。襖に寄り掛かって寝ているらしい。思い切り体重が掛かっているから襖が開かないのだ。
それにしても寝るの早すぎだろ。寝ないっつってたのはどこの誰だよ!全く、酔っ払いの行動は計り知れない。
「もぉ〜…」
あたしが壁に寄り掛かった時、隣でゴソゴソ動くものを感じた。
「むぉ…ふぉ」
おかしげな声もする。
だんだん暗がりに目が慣れてきた。そしてよ〜く目を凝らすと
「ん…矢上?」
なんと矢上が口にハンカチを巻かれ、手足と両手をタオルで縛られ拘束されていた。
あたしは急いで解く。
「何やってんの!」
「閉じ込められた」
苦笑いをする矢上。
「お前もか…」


そうして最初に戻るわけだ。
あたしたちは膝を抱えて壁に寄り添って座った。
流れる沈黙。
だけどその沈黙が妙に心地よかった。
「迷惑じゃない?」
先に口を開いたのは矢上だ。
「何が?」
「オレと閉じ込められて…」
後半がぼそぼそと小さくなっていった。
あたしはすぐに
「うん、いや」
と答えた。
それを聞いて矢上が
「そっか…」
と哀しげに笑った。
ちょっとからかうつもりだったが、思いの外矢上がしゅんとしていたのであたしは急いで弁解した。
「う、うそだよ!迷惑でもないしいやでもないよっ」
「それ本当?」
矢上があたしを上目遣いに覗きこんだ。そんな矢上を見てあたしは胸の奥がキュウッとなった。
「本当」
その『キュウッ』が何だかくすぐったくてあたしはつい顔がほころぶ。
「…何だ、よかったぁ〜」
しばらく黙り込んだ後、矢上も安心したように深くため息を吐いた。
「まじでショックだったんですけど…」
矢上がわざとらしく声を落とした。


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