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H.S.D
【学園物 恋愛小説】

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H.S.D*17*-1

今日の校内はいつも以上に活気だっていて何となく心がわくわくする。
教室の前であたしは大きく深呼吸をしてガラリと一気に扉を開けた。
「おはよ…うわぁっ」
一瞬で目の前が真っ暗になり手足の自由が奪われた。まるで、いや、正しく『拉致』だ。あたしは拉致られてしまった。
「音羽おとなしくして!」
「そっち手足押さえて」
「そこ!さっさと制服脱がす!」
「ほ〜うピンクですか♪」
「なっ何!?何が起きてんの?やぁだぁー!離し…もふっ」
あたしの口にタオルが詰められる。聞き捨てならない会話が飛び交っているのに、何も出来ないこのもどかしさ…あ〜あ、情けない…。


数分後、やっとあたしは解放された。
「何ですか、この格好は?」
「うちらの衣裳に決まってんでしょ」
解放されたあたしは、なぜかウエスタンちっくな服を着せられていた。頭にはちゃっかりウエスタンハットまで乗っている。
「カウガール…?」
「そうです、カウガールにカウボーイです」
好美がふふんと鼻で笑った。よく見ればクラスメイト全員が同じような衣裳を着ている。
「あんた、絶対着たくないって言うでしょ?」
「うん」
「だから拉致らせてもらったのよ。感謝しな」
こんなのあんまりだ。もう言い返す気力もない。
「はぁ、もういいよ。早く準備しようよ」
「はーいっっ!!」
何十本もの腕が天高く上がり、みんな思い思いの行動をとり始める。
それをあたしは少し笑いながら見ていた。
だけど気付いた。
「ねぇ好美、矢上知らない?」
矢上がいない。
あたしは好美を呼び止める。すると
「あ〜…ね、どこ行ったのかな?」
とすぐにどこかに行ってしまった。
あたしは好美の態度がおかしいと思いながらも、自分の仕事もしないといけなかったので渋々自分の持ち場に着いた。


10時開店から1時間半、あたしたちは焦っていた。
なぜって?
お客さんが一人も来ていないからだ!
たぶん窓ガラス全てに張った英字新聞のせいで外から中が見えにくく、入りにくい雰囲気を醸し出しているからに違いない。
せっかく一番広い教室借りたのに。三階より一階の方が調理室も近いし、お客さんもくるだろうと思ったのに。
これじゃあ全て水の泡だ!
「どうしよう、樋口」
料理がたくさん並んだテーブルに座っていた樋口は眉をしかめていた。
「仕方ない。奥の手を出すしかねぇな」
そう呟いてに立ち上がったかと思うと、掃除用具入れに向かって歩いていく。
『奥の手』って何だろう。
あたしはごくっと生唾を飲み込んだ。
把手に樋口の腕が伸びる。緊張の一瞬。
そのドアがそっと開かれ出てきたのは
「う〜ん!やっとオレの出番?」

―矢上!?

なんとあんなに狭い掃除用具入れに人が…いやいや違う。確かにそれにも驚いたけれど…。
「ねぇねぇ音羽ちゃん!オレ可愛い?」
矢上があたしの前でくるんと回転した。
何が一番驚いたかって、矢上があたしと同じ格好をしていたことだ。
皮のジャケットに赤いチェックのミニスカート、ウエスタンブーツにもちろんハットまで。しかもエクステだかズラだか知らないが髪の毛もサラツヤストレートでものすっごく可愛い。
…悔しいけど完全に男に負けた。


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