【空色のあめ玉】-2
テーブルにちょこんと置いてある青い一輪挿しにオレンジのアネモネ。５枚の花びらに少し触れる。真っ直ぐに上を向いたアネモネがちょっと羨ましく見えた。
元気ね、君は。
コーヒーは冷めてしまったけれど、冷たいって程じゃない。冬が過ぎて、もうすぐ雨ばっかりになる。そんな隙間の暖かな日。桜は終わっちゃったかな。昨日は寒かったな。今日みたいなこんな晴れ晴れとした日にまだ来ないなんて。やっぱり不機嫌になってやる。
一輪挿しとコーヒーカップを並べてみる。テーブルに片手で頬杖を点いて、空いた手でやっぱりスプーンをくるくる回してみる。
頭の中でバーカと連呼してみて、不機嫌になる準備を進めた。
バーカ
バーカ
バーカ
くそぅ。待つ事はいつもの事って思ってみても、いつも同じ事してる。
ふいに顔を暖かな風が撫でた。テラスに抜けるガラス戸を店員さんが開けっぱらったんだと気が付いた。ガラス戸のすぐ外側に幹の白い綺麗な樹が生えている。あれは白樺って言うのかな。いつも聞いてみようって思ってみるのに、結局今もわからないまま。自分ではもう、白樺って言う事で決着が付いていた。だからまあいいか、と完結。
白樺の奥にあるいつも緑色の垣根のてっぺんに、なぞって動く茶色い帽子を見つけた。
悔しいから声は掛けてあげない事にする。
テーブルのアネモネが微かな風に押されて少し動く。くるくるを止めてアネモネにもう一回触れる。
紅茶。頼もうかな。
カランとドアに付いた小さな鐘が鳴った。きっと帽子の縁の辺りをカリカリって掻いて、きょろきょろしてるんだ。今日は不機嫌になってやるんだ。
隣の椅子が動いた。
またスプーンをくるくる回してみる。
コツンとアネモネの隣に小さな瓶が置かれた。
親指くらいの小さな瓶。
透明で、小さなコルクの蓋がはめてある。
中にコロンと一つ。吸い込まれそうな水色の丸い小さな何かが見えた。
ビー玉？
『今日の空色のあめ玉あげるよ』
私はバカだと思ったけど、なんだかそれでいいやって思った。
でも、今日は不機嫌になるんだから。この冷めちゃったコーヒーあげるよ。暖かな紅茶が飲みたいの。
今日の空が入った小瓶。ちょっと振ってみたらコンコンって音がして、割れちゃうと困るから外側から見つめて楽しむだけにしてみた。
それと、美味しそうなんて思わないようにちょっと気を付けてみようって思った。