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【空色のあめ玉】
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【空色のあめ玉】-1

 真っ白なコーヒーカップの中に鈍く銀色に光るスプーンをいれて、カップを満たしているコーヒーをくるくる混ぜてみた。ミルクが溶けて褐色のキャラメルみたいな液体に浮かぶ小さな泡が、中心で渦を巻く。柔らかに湾曲した滑らかな表面は、プラスチックで作られているように見えた。

 このまま固っちゃえば綺麗なのに。

 カップの中でスプーンを斜めに傾けて、口も付けていないコーヒーに立ててみる。ピタッと止まっちゃえばいいのに。そうすれば、こんなに長く待つ事にも退屈しなくなるのかな。このちょっともやもやした時間まで固められないのかしら。
 そんな事を考えながらスプーンをくるくると回していた。
 スプーンがコーヒーカップの内側に当たり、カチャンと音がなった。それを合図にスプーンを止め、もう冷めてしまったコーヒーを初めて一口飲む。

苦っ

なんでこんな物が好きなの?わからないな。
 ミルクは出された分全部入れるけれど砂糖は無し。いっつも決まっていた。

変なの。

 気まぐれに真似してみたけれど、今更ながらに後悔を感じる。こんな事ならばいつもみたいに紅茶にしておけば良かった。

あ〜あ。

 煎れたての湯気がむんむん香る紅茶に、たっぷりのミルク。角砂糖を一つ落として、溶けて砕けていく姿を思い浮かべてしまった。すると余計に間違えたという思いが大きくなって、無性に紅茶が恋しくなっていく。

 再びくるくる回り始めたスプーンは、もう手遊びのおもちゃ。なんの意志も意味もなくて、ただくるくると回り続ける。
 壁の代わりにはめ込まれた大きなガラスを挟んで、奥に見えるテラス。そこに犬を連れたおじいさんがゆっくり縦揺れをしている。顎にくっついた柔らかそうな髭も上下していた。椅子から落ちなければいいけど。と、ぼんやりと眺める。おじいさんの足下に丸くなっている白い犬。丁度、日の光を体に受けて静かに目を閉じていた。
眠っているのかしら。気持ちよさそう。
 相変わらずスプーンをくるくるしながらじっと見つめてみると、ピンッと立った耳が回れ右をした。ちょっと驚いて、ついにやけてしまった。
 起きているんだ。暇なのかしら。そう思った時、白い犬がふてぶてしく片目を開けて、その拍子に目が合った。思わず背筋が伸びる。なのに犬は顔を逸らせプイッとそっぽを向いてしまった。なぜか無性に恥ずかしくなる。自分の考えている事や、今の情けない状況を読みとられたかのように思えて、急いでうつむいた。少し頬が熱い。
バカみたいだな。なんて思う。
 視線を手元に戻し、回り続けるスプーンを見つめなおす。
まだ来ない。

 まったく。今日は不機嫌になってやる。


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