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『桜が咲く頃に』
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『桜が咲く頃に』-2

〜冬〜
 朝、冬にしては暖かい陽気に目が覚めた。隣には優しく微笑む茜の姿があった。
あたしは慌てて身を起こした。
「おはよ、雪乃ちゃん。お茶飲むよね?」
茜さんは何も言わずにあたしに温いお茶を渡してくれた。
「君彦から聞いたよ。ごめんね。」
茜は優しく笑う。
あたしは黙って首を振った。
「でもね、雪乃ちゃん。僕の気持ちは変わらない。君彦に雪乃ちゃんと会わないでくれって言われて。しばらくは我慢できたのに、会いたくて来ちゃったし…。雪乃ちゃんのこと、重荷なんて思わない、僕は雪乃ちゃんが好きなんだ。」
茜の言葉に雪乃は涙を流す。
「あたし、茜さんのこと大好きです。でも、ダメなんです…。今は重荷じゃなくても、絶対重荷になります。今は若いから…。」
「わかった。雪乃ちゃん、証拠見せるよ。この冬があけたら、僕は雪乃ちゃんを迎えるにくる。それまで会いにこない。春、桜が咲いたら、僕が迎えに来たら、付き合ってね。」
茜はそう言うと病室を後にし、それ以後姿を見せない。

〜一ヶ月後〜
 冬の寒さが痛い中、相変わらず、あたしは病院にいる。あたしの横には、心配そうな顔をした兄の姿がある。
「茜さん、海外行っちゃったの…。」
あたしは兄から手紙を渡された。茜さんがあたしに宛てたもの…。
手紙の内容はシンプル。
(前略、お元気ですか?僕は今、アメリカに来ています。春には迎えに行きます、楽しみにしていて下さい。追伸、冬の風は体に悪いです。お気をつけて。愛しい君へ。茜より。)
手紙を読み終え、隣で心配している兄にお構いなく、あたしは笑った。
兄はあたしの笑顔を久しぶりに見たのだろう、驚いて口が開いたままでいる。男前が台なしだと思いつつ、あたしは何も言ってあげない。
「兄ちゃん、あたし覚悟できた!春、桜が咲く頃、茜さんが迎えに来たら、茜さんの重荷になる!」
あたしは笑って言う。
「おう…」
君彦は返事をしたのはいいが、完全に呆気に取られていた。
兄があたしの言ったことを理解したのは、しばらく時間が経ってからだった。
それから、茜さんは手紙を送ってくれる。時には写真つきで。

今度、手紙がきたら返事を書こう。簡単な手紙を…。そうだ、はじまりは“愛しいあなたへ”なんて。後、元気でいること、春に迎えを待ってることも書いて。
あたしは待ってる。桜が咲く頃、茜さんが迎えにくることを…。



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