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『桜が咲く頃に』
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『桜が咲く頃に』-1

〜プロローグ〜
 目が覚める…。当たり前の事なのに、あたしは憂鬱でしかたない…。どうしてかって?それは病院で毎日同じような日々を、繰り返し送っているから…。

〜秋〜
 あたしの名前は海道雪乃(かいどうゆきの)、18才。あたしは幼い頃から心臓に爆弾を抱えていて、毎日を病院のベットで生活している。あたしの両親は海外に仕事、あたしを病院と兄に任せっきりで見舞いにすらこない。そんな親に見舞いにきてほしいとは思わない。
内心、早く死んでしまえば…って思っている。

 「雪乃さん、点滴の時間です。」
看護婦が入ってくる。あたしは返事をしない。勝手にして、と心の中で思っていた。
「雪乃、見舞いにきたぞぉ〜!」
笑顔で病室に入ってくる青年、あたしの兄の海道君彦(かいどうきみひこ)、20才。あたしとはなんでも正反対、風邪もひかない健康体。毎日、見舞いにきてあたしの世話をしてくれる。愛想もいいので看護婦達にも人気がある。
「今、点滴中かぁ〜。朝飯はちゃんと食ったか?」
あたしが不機嫌なのを気にせず、一人喋っている。
兄が来たことで、看護婦はいつの間にか姿を消していた。
「やっ、雪乃ちゃん。具合どう?」
兄の影から青年が顔を出した。横田茜(よこたあかね)、名前は女みたいだか、男性。兄の親友であり、あたしの憧れ、初恋の人。今も好きだけど…。手にはあたしの好きなかすみ草があった。
「茜さん、どうして?」
あたしは声を上げた。
「君彦から雪乃ちゃんに元気がないって聞いたから。君彦、会社行かなくていいのか?」
茜は時計を見た後、君彦を見た。
「わっ!やばい、茜、後頼むなっ!じゃあな、雪乃。仕事が終わったら寄るから!」
君彦はそう言って病室を去った。
残されたあたしはイマイチ理解出来ず、茜さんの顔を見た。
「今日は僕が雪乃ちゃんに付いてるから。」
茜は優しく笑って言う。
「でも、茜さんも会社があるんじゃ?」
あたしは茜さんを見た。
「今日は休み。」
茜は笑って答える。
同情とわかっていても、あたしは嬉しかった。
茜さんはかすみ草を花瓶に生け、椅子に座る。その光景にたまらず、あたしは笑った。笑ったのは本当に久しぶりだ。
「何か変?」
茜は不思議に思った。
あたしは笑いながら首を振った。
しばらく、世間話をしていると看護婦が入ってきた。
「あら、今日はお兄さんじゃなかったのね。雪乃さん、彼氏?」
「違いますよ。」
あたしは笑って答える。
茜の顔が明らかに赤くなっていた。
「でも、楽しそうね。よかったわ。」
看護婦はあたしの様子を見て、部屋を去った。
「雪乃ちゃん、前から言おうと思ってたんだけど…。聞いてくれる?」
急に茜さんは真剣な表情をする。あたしは黙って頷いた。
「じつはね。僕、雪乃ちゃんの事好きなんだ。付き合って欲しいんだけど、ダメ?」
返事をしないあたしに茜さんは言葉を付け加えた。
「急に返事を貰おうって思ってないから、ゆっくり考えて。」
あたしは驚いた、嬉しかった。長年、想っていた人も自分の事を想っていてくれていたのだから…。けど、あたしは茜さんの想いには答えてあげられない。あたしが茜さんと付き合ってしまったら、あたしは確実に茜さんの重荷になる。

 夜になり、君彦がやってきて、茜は帰って行った。君彦はすべて知っているのだろうか?雪乃は疑問に思った。
あたしは今日茜さんに告白された事を、兄に言うことにした。
「兄ちゃん、今日ね…茜さんに告白されたよ…。」
あたしは静かに言い、兄の反応を待った。
「おっ!あいつとうとう言ったか!?いや〜、あいつの初恋の相手、お前らしいぞ。もちろん、OKしたんだろ?」
兄の言葉にあたしは黙って首を振った。
「なんで、お前も…」
と兄が声を上げたが、あたしの頬を流れる涙を見て、言葉を消した。
「言えるわけないよ…あたしが茜さんと付き合っちゃったら、あたしは茜さんの重荷になるんだよ…。どうして…どうして、あたしは健康に生まれてこなかったの…。」
あたしは兄を見た。兄はあたしを優しく抱きしめていてくれた。兄の頬からも、涙が落ちていた。兄も辛いはずだ…、わかっているのに、あたしは兄に…。もうなにもかも嫌になり、あたしは食事すら取らなくなった。


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