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『名のない絵描きの物語』
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『名のない絵描きの物語〜黒猫編〜』-3



自分よりは随分と若い、青い青年だ。 何かしらと語りかけてくる眼が強く光り、僕の方を向いている。
どちらかといえば悲しみを覚えるその眼は、とりあえずは悪い気はしなかった。

猫サンは少年が来た途端黙りこみ、ツンとした表情で沈みゆく夕陽を見ていた。 遠い所を見てる様で、また、近い未来をも見てる様にとれた。

一言、ニャ〜ゴ。
と、夕陽に鳴いたを聴いた。



田中サンは手を止める事をせず、しかし顔をこちらに向けて言った。
『どうかなさいましたか? ひどく寂しい顔をなされてますが。』
急な言葉を理解するのに、約5秒はかかっただろう。 それでも切れ長の眼は僕から離れない。
「そうですかね? 別段、普通ですが。」
ウソだ。
普通ではない。
普通ではいられない。
彼女への想いで暴れだしそうだ。
今も、彼女の顔が見たくて仕方ない。
でもこの想いは届かない。
叶わぬ恋と知っている。
叶わぬ恋と知っている。
叶わぬ恋と知っている。
叶わぬ恋と知っている。
叶わぬ恋と知っている。

『大丈夫ですか? なにかボーッとしてらっしゃるみたいですが。』
僕はその言葉で現実に引き戻される。 頭の中を支配していた彼女の顔も、急に曖昧なものへと変わる。
「あぁ、すいません。 実は最近悩んでいて…」
言った後で後悔した。
初対面の相手になにを言ってるんだ。
それでも、口は止まってはくれなかった。



少年は一人、独白を始める。
僕はそれに相づちを打つ。
時折想を言い、また時折なぐさめの言葉をかける。

猫サンもいつしか話を聞いていた。



「僕、好きな人がいるんです。 とてもキレイな女性で、僕の同い年の人なんですけど… あぁ、僕高校生なんですけどね。 はぁ…」
頭の中では“止めろ!!”と警戒の鐘が鳴り続けているが、しかし口は止まれない。
一瞬だけ、猫と目が合った。
「その人は好きな人がいて。 しかも、ずっと僕がその人との仲を取り持っていて、相談に乗っていたんですけど… それが辛くて。」
また一瞬だけ、猫と目が合う。 それが辛くて。
「想いは届かない事を知っているんです。 その女性がどれだけその人を好きかも。」
叶わぬ恋と知っている。
叶わぬ恋と知っている。
「それでも伝えようかとずっと迷っていて、気付いたら田中サンに話しかけてました。」

今度はジッと目が合う。 チラリと田中サンを見てから、ニャ〜と一声鳴いた。
少しだけ、涙がこぼれた。



一粒、二粒、いや三粒ぐらい、涙が落ちた。
落ちてすぐ、乾いた様に見えた。
泣く少年を見てから、猫サンを見た。 猫サンは一言ニャ〜と鳴いて、また夕陽に視線を戻した。

その眼はとても、慈しみに満ちていた。


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