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ずっと、好きだった
【片思い 恋愛小説】

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ずっと、好きだった(2)-1

「その呼び方、やめて」
自分でも驚くほど、冷たい声だった。
当然、彼は目を丸くしている。
「そんなに怒ること?」
「あ…いや…ごめん」
「べつに、いいけどさ」
彼は眉を下げて呆れたように笑った。
いつもならばこの笑顔に胸をときめかせるのだが、今はその余裕が無かった。
彼の言う通り、血相を変えて怒るようなことではない。
「もしかして、あれ?『味付け海苔』の『ノリ』っぽいから?」
私は曖昧に頷いて、普段通り‘紀子’と呼ぶように頼んだ。
しかしそれも遅く、固く結んであった記憶の糸は、既にほどけ始めていた。
最後の言葉を口にするとき、悲しそうに微笑んでいたあの人が蘇る。
「秀司」
「ん?」
「キスしたい」
「紀子、今日は変だな」
彼はまた困ったような笑みを浮かべ、そっと口づけてくれた。
キスを終え、離れかけた体に擦り寄る。
一刻も早く、秀司でいっぱいになりたい。
あの人を追い出したい。
あの時のことを、思い出したくないのだ。
憎めるならいい。
恨めるならいい。
でも、そうではないから、思い出したくない。
記憶の中のあの人は、泣きたくなるほど私を優しく抱きしめてしまう。
「紀子?」
彼の手が視界を扇ぎ、はっと意識を取り戻す。
「やっぱり、変だよ。大丈夫?熱とかあるんじゃない?」
「ううん、平気。ちょっと、眠いだけ」
「あぁ、昨日、朝までレポートやってたんだもんな。ほら。いいよ、寝て」
彼は自分の太股を叩き、口角を上げた。
咄嗟に出た言い訳だったけれど、眠いのは嘘ではない。
心配させるのも悪いし、素直に甘えてしまおう。
頭をのせると、秀司の匂いがした。
温かさも落ち着ける。
私は無抵抗に目を閉じた。
「…やっぱり、起きてる」
どうして…。
瞼の裏に、あの人が映ってしまった。
そもそも、二人の関係を壊すきっかけを作ったのは、他でもない私だった。
だから、彼を憎んだり恨んだりというのは違うかもしれない。
でも、他に好きな人がいたのに、嫌な記憶として、二度と会いたくない人としてあの人を思い出せないのは、やはりおかしいだろう。
切なく、ほろ苦い、大切な時間として、あの時が蘇る。
私は、救われていた。
あの人の存在に、私は救われていた。
「んじゃ、よっ掛かってなよ。もし、寝られそうだったら、そのまま寝ちゃっていいから」
あの頃とは別人のように、すっかり優しくなった秀司が肩を貸してくれる。
罪悪感に、胸が痛んだ。
私にとって、彼はどんな存在だったのだろう。


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