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こころ…へ
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こころ…へ-1

rococo BAR
ここは一年前にopenした俺、南 邦光(みなみ くにみつ)の店。
小さいながら俺の城、ってところだ。
「店長、お疲れ様でしたー」
「お疲れ様でしたー」
深夜2時閉店後、片付けを済ませたバイト達が次々に帰っていく。
「うぃ〜、お疲れ〜」
昼は11時〜15時までカフェ・ランチをし、夜は20時〜2時までBARをする。
昼も夜も客からよく聞かれる。
『rococoってどんな意味ですか?』
『どこの言葉ですか?』
俺は『秘密です』なんてちょっと意味深に答えてみたりする。
「邦さん、お疲れです。すみません…今日も奥借ります」
「おうっ」
こいつは小畑 瓜生(こばた うりゅう)、前のバイト仲間だ。
そこのBARで女子に人気だったので、客引きに引き抜いてやった。
案の定、大当たり!!こいつを目当てに女子客が増えている。
そんなこいつが最近、バイト後に勉強を始めた。なんでも惚れた女の為だとか…リハビリ?福祉?よく分からないが、専門学校を受験するらしい。家だと勉強が進まないので、ここでさせてほしいと言ってきた。
ー頑張るよな〜あいつ
俺は今日の売り上げの計算を済ませ、売り上げ金を金庫へ入れた。
キー…
その時、店の戸が開いた。
ーあ…鍵掛け忘れた…
「あ、すみません、もう閉…」
入ってきた客に俺の思考も動作も全てが停止する。
「ごめんなさい…あの…」
別れたのは五年前。あの頃よりほっそりした清香(きよか)、俺をまっすぐ見据えて立っている。
「おっ、…おお…久しぶり、ああ、どうぞ…」
ー…ああ…あ、あ…焦るぜ〜…
ゆっくりカウンターへ座った清香。
「店長、お疲れ様でした」
!!
「おっ、おう」
瓜生、すました顔で店から出て行った。…何だかこいつには全て見透かされてる気がする…
「店…恵里さんに聞いて…」
「おう、何か飲む?」
俺、震える手でグラスを持ち上げる。
「rococoって、‘こころ’のこと?」
清香、相変わらず俺をまっすぐ見据えている。
ーあうっ、直球かよ!!
「…ああ…」
俺、清香が好きだったカルアミルクを清香の前に置くと、背を向けて煙草に火を付けた。
耐えられない。このストレートな視線に…
「私あれから結婚してたの…」
「ああ…知って…」
ーん?え?
「過去形?!」
俺、驚いて清香の方へ向き直る。
「うん、離婚したの…半年前」
「あぅ、何でー?…いや、ごめん、聞くのは良くないな…うん」
「…邦君変わらないね…」
どきっー
ーおっ、おいおいおいっ…ヤバいでしょう〜、久々会って独身だし、お前綺麗になってるし、おま…
「流産したの、一年前」
ーえ…
「仕事辞めなかったからじゃないかって責められて…」
「な…何だよその男は〜っおまっ、夫ってのはなーそういう時支えるもんだろが!!」
「邦君…」
ー……
「…いや……ごめん…俺が言えた立場じゃねーな…」
「ううん…あんな風に責められて五年前の邦君の気持ちがちょっと分かったの…」
「いや、違うだろ、違うだろ状況が〜…」
「ううん…邦君も辛かったのに私…邦君ばっかり責めて…」
「んなゃ、俺悪いだろ、俺悪いだろがっ」


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