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琴線
【大人 恋愛小説】

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琴線-3

リフレッシュ・ルームはビルの7階、西角に有る部屋だ。窓に囲まれて周りに高いビルが少ない事もあって展望が良い。幾つものテーブルチェアーが据えられている上、部屋隅に飲み物やタバコの自販機が据え付けてある。

一巳は缶コーヒーを2本買うと1本森に渡してテーブル・チェアーに腰掛けた。対面に森が腰を下ろす。一巳は制服の胸ポケットからフィリップ・モリスを取り出すと火を着ける。青い煙が辺りを揺らす。

[相談って?]

森は缶コーヒーを一口飲んでから、

[藤野さん。今、付き合ってる人は居る?]

一巳は飲み掛けたコーヒーを吹き出しそうになるのを堪えながら、
[いきなり何だい…今は居ないよ]

彼は1年程前、それまで10年近く付き合っていた女性とピリオドを打ってからというもの、女性との交際は無かった。

森はやや表情をほころばせながら、話を続けた。

[会って欲しい娘がいるんだけど…]

[ハァ?何故オレが]

[私の周りじゃ藤野さんがベストかなぁと思って…]

一巳の口元が苦笑いに歪む。"オンリー"でも"ベリィ"でも無く"ベスト"とは…

森は一巳の反応を待ちながら、時計に目をやると、

[…!ゴメン、"ちょっと"って出てから15分も過ぎたわ。続きは帰りに良いわね]

森は立ち上がると"コーヒーご馳走さま"と言ってと言って足早にリフレッシュ・ルームを立ち去った。残された一巳は森が視界から消えるのを見届けると、窓の外を眺めながら2本目のフィリップ・モリスをくわえた…


夕方5時半……一巳は忙しくキーボードを叩いている。すると、デスクの電話が鳴り響いた。メロディから内線電話だと確認した一巳は、電話のディスプレイを覗いた。森からだ。彼はゆっくりと受話器を取った。

[はい、藤野ですが]

[定時後に"マルイシ亭"で待ってるから…]

"マルイシ亭"とは会社近くにある洋食屋の店名で、昼間は洋食屋だが夜は洋食をメインにした居酒屋をやっている。

一巳は残りの仕事量を見て、

[…定時にゃ終わらんぜ。少なくともあと30分は掛かるよ]

[分かった、待ってるから]

そう言うと電話が切れた。一巳は受話器を戻すと、再びキーボードを叩きだした。

5時40分……森は更衣室で私服に着替えると、会社前の大通りを横断する。本社の方へ行く小道を抜けるとその居酒屋はある。彼女が入口を開けると、カウンターには一巳が座っていた。


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